小よく大を制す――。
 現役時代、それを地で行く相撲を取ったのが、元小結の舞の海だ。
 相撲はボクシングや柔道のように体重別の階級が設けられていない。300キロの巨漢力士も100キロの小兵力士も同じ条件下で戦わなければならないのだ。
 舞の海には有名なエピソードがある。入門する際、新弟子検査の身長基準(173センチ)に4センチ足りなかったため、頭にシリコンを埋め込んで検査に臨んだというのだ。

「実は当分、お酒を飲めなくなると思って手術の前日から当日の朝まで飲んでいた。それもあって手術の麻酔が効かない。頭にメスを入れるたびに痛くって。手術後、3日間ほど激痛で眠れませんでした」

 そこまでして力士になりたかったのは、彼が相撲どころの青森出身だったことと無縁ではない。「力士になれないんだったら生きる意味がない」とさえ考えていた。

「もし、大相撲の力士として活躍できないのなら、故郷(青森)には帰らないと決意していました。入門に当たっては“その体じゃ無理だ”という意見がほとんどだったので、駄目だったら“ほら見たことか”と言われてしまう。それが嫌で必死に頑張りました」

<この原稿は「ビッグトゥモロー」2011年2月号に掲載されました>
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