バンタム級・堤聖也、同学年の井上拓真との激闘制し王座奪取 フライ級・寺地拳四朗は2階級制覇達成 〜ボクシング世界戦〜

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 13日、ボクシングのクアドラプル世界戦が東京・有明アリーナで行われた。WBA世界バンタム級タイトルマッチは同級2位の堤聖也(角海老宝石)が王者の井上拓真(大橋)に判定勝ち、王座を奪取した。WBC世界フライ級王座決定戦は同級1位の寺地拳四朗(BMB)が同級2位のクリストファー・ロサレス(ニカラグア)に11ラウンド6秒TKO勝ちでライトフライ級に続く世界2階級制覇を達成。WBA世界フライ級タイトルマッチは王者のユーリ阿久井政悟(倉敷守安)が同級7位タノンチャイ・チャルンパック(タイ)に判定勝ち、2度目の防衛に成功した。WBO世界ライトフライ級王者決定戦は同級1位の岩田翔吉(帝拳)が同級2位のハイロ・ノリエガ(スペイン)に3ラウンド3分TKO勝ちを収め、初の世界王座を獲得となった。

 

 2日間で7試合世界戦が行われる有明アリーナ。1日目の締め括りは同学年対決による激闘が詰め掛けた9500人を大いに沸かせた。1995年生まれの堤と井上拓真は高校2年時に全国高校総合体育大会(インターハイ)ライトフライ級準決勝で対戦していた。この試合に勝利した井上拓真は翌年プロデビュー。堤は大学を経て、井上拓真から遅れること3年でプロデビュー戦を行った。「彼がいたからプロの世界に飛び込み、彼がいたからボクシングを続け、こういう舞台に立てた。人生の恩人」と堤。12年ぶりの再戦に心燃やしてきた。

 

 試合はゴングから堤がエンジン全開。距離を詰めてパンチを繰り出す。井上拓真をロープ際に追い込み、手数で上回った。王者は高いディフェンステクニックでそれをかわすというのが序盤の構図だった。堤の印象はこうだ。

「当てづらい、上が当たらないから下から下から行く作戦。でもなかなか当たらないし、どうしようかなと。ただ肝心なスピードは予想の範囲内だった。そこで焦ることはなかった」

 ラウンドごとにセコンドの石原雄太トレーナーの指示を仰ぎながら冷静に、熱く戦った。後半に入っても堤の勢いが落ちることはなかった。

 

 試合後、「気持ちで相手が上回っていた」と井上拓真は肩を落としたように、堤の気迫が王者を飲み込んだか。10ラウンド、ロープ際で一瞬、相手が視線を切った隙を逃さなかった。堤が飛び込むような左フックを当てると井上拓真はグラつき、ロープにもたれかかった。なおも攻勢を仕掛けるもののレフェリーが止め、ダウンを宣告。王者は抗議したが、ロープがなければダウンしていたという判定だろう。

 

「ダウンを取ったら行くというプラン」。最後まで攻め手を緩めなかったのは堤の方だった。ジャッジペーパーを見ると、10ラウンドからの3ラウンドのポイントが勝敗を分けた。「このラウンド取った、取られたとかを考えていなかった」と無我夢中で攻め続けた。「1ラウンド、1ラウンド全力で戦った」。セコンドの石原トレーナーも「とにかく気持ちで行くという指示しか出していなかったです」と振り返った。最終12ラウンド、堤は終了のゴングと同時に空振りした勢いでコーナーに寄りかかるほど、力を振り絞った激闘だった。判定は3-0(117-110、114-113、115-112)のユナニマス・ディシジョン。堤がレフェリーに左手を掲げられた。

 

「『And the new!(アンド・ザ・ニュー)』と呼ばれることをずっと頭の中で想像していた。『And the new!』『And the new!』ってずっと、こうなるんだと描いていた。判定の瞬間は怖かったんですが、それが聞こえた瞬間、本当にうれしかった」と堤。中学生の時に触り、憧れた世界ベルトを自身の腰に巻いた。対戦相手は追いかけ続けた同学年の井上拓真ということもあり、喜びもひとしおだ。

「拓真に勝ったというのは、本当にうれしいです。やっぱり拓真がいなかったプロボクシングに来ていないと思うし、ずっと高校生の時からリベンジしたいって考えていた。拓真からしたら僕は、普通のインターハイで1度試合をした同い年のやつ。それ以上もそれ以下でもない。12年間ずっと片思いをしていただけ。追いかけて、追いかけて、追いついて、今日超えることができた。最高ですね」

 

 日本人4人が世界王者に就く群雄割拠の国内バンタム級戦線。WBC王者の中谷潤人(M.T)は14日に防衛戦を控える。WBO王者の武居由樹(大橋)は9月に元フライ級王者の比嘉大吾(志成)との激闘を制し、防衛に成功した。5月にIBF王座を奪取した西田凌佑(六島)もいる。そしてこの日、WBA王座は井上拓真から堤に渡った。那須川天心(帝拳)はWBOの地域王座獲得(アジアパシフィック)に挑む。統一戦、日本人対決に期待は膨らむが、堤は「ベルトは他のも欲しいと思うのが自然な流れ。井上拓真というチャンピオンに勝ったから、そういうことも言っていいのかなと思っています。ただ、ちょっと今はお腹いっぱいなので次のご飯のことは考えたくないです」と笑った。

 

 フライ級転向初戦の寺地は「メッチャ緊張した。入場の記憶がない」と振り返ったが、それでも冷静な試合運びで元WBC王者を圧倒した。身長で4cm、リーチでは16cmで上回られたが踏み込み鋭くジャブを繰り出し、主導権を握った。

 

 5ラウンドあたりからロサレスの顔が朱く染まる。その後もほぼ寺地が優位に試合を運んだ。すると11ラウンド開始直後、レフェリーが2人に割って入る。ロサレスの鼻は明らかに折れており、ドクターストップ。寺地のTKO勝ちで2階級制覇達成となった。「倒せたら良かったが慎重になった」。それでも「いつもよりはヒヤヒヤしなかった。これから拳四朗第2章。また新しい自分を見せていきたい」と抱負を述べた。

 

 寺地と同じフライ級の世界王者ユーリ阿久井は「ダメダメな内容。次はもっといい試合を見せられるよう頑張ります」と2度目の防衛も反省した。WBCの寺地のほかWBOのアンソニー・オラスクアガ(アメリカ/帝拳)、IBFのアンヘル・アヤラ(メキシコ)との統一戦も期待されるが、「心の中は“練習しろ”と言っている」とリング上で他団体王者に挑戦状を叩き付けることはなかった。

 

 一方、リング上で他団体王者を名指ししたのは2年前のリベンジを果たした岩田だ。2022年11月に世界初挑戦。WBO世界ライトフライ級王者のジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)に判定負けを喫した。「自分の得意なところでボクシングできなかった」と粟生隆寛トレーナーらの指導の下、引き出しを増やしていった。

 

 4連続KO勝ちでWBOのランキングで1位につけ、再度掴んだ世界ベルトへの挑戦権。14戦無敗で2位のノリエガと空位となったベルトを争った。ジャブで間合いを測りながら、振り回してくる相手の攻撃に対応した。

 

 すると3ラウンドに試合は動いた。岩田の右のショートアッパーでダウンを奪う。「陣営から『行け!』と言っていた。これは行かないとダメだと」。一気に畳み掛け、ロープ際でラッシュ。右のボディを当て、最後は左フックをアゴにヒットさせた。ゴングが鳴るとほぼ同時にレフェリーが試合を止めた。

 

「ここがゴールじゃない。もっともっと強くなりたい」と岩田。次戦の相手に12日にIBF王座を獲得したばかりの矢吹正道(LUSH緑)を指名した。岩田は「因縁のある相手」と言い、過去にSNSで自分との勝負を逃げていると記されたからだという。しかし矢吹はフライ級への転向を示唆しているが「やっぱり本当にライトフライ級で盛り上がるカード、矢吹選手と自分の試合がファンの皆さんが見たい試合なのかなと思っている」と“ライフライ級残留”を希望した。

 

(文/杉浦泰介、写真/大木雄貴)

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