バンタム級・中谷潤人、格の違い見せつけるKO防衛 〜ボクシング世界戦〜

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 14日、ボクシングのトリプル世界戦が東京・有明アリーナで行われた。WBC世界バンタム級タイトルマッチは王者の中谷潤人(M.T)が同級1位のペッチ・ソー・チットパッタナ(タイ)を6ラウンド2分59秒TKO勝ちを収め、2度目の防衛に成功した。WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチは王者の田中恒成(畑中)が同級5位のプメレレ・カフ(南アフリカ)に判定負けし、王座陥落となった。WBOアジアパシフィックバンタム級タイトルマッチは同級1位の那須川天心(帝拳)が同級2位のジェルウィン・アシロ(フィリピン)に判定勝ち。プロボクシング転向5戦目で初タイトル獲得となった。WBO世界フライ級タイトルマッチは王者のアンソニー・オラスクアガ(アメリカ/帝拳)が元王者のジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)と対戦も1ラウンドに偶然のバッティングでゴンサレスが続行不能となり無判定試合に。王座を守ったものの、本人も消化不良の結末となった。

 2日間で7つの世界戦を行う初のビッグイベント。大トリを務めた中谷がメインイベンターの仕事を全うした。プロキャリア77戦で1回もKO負けのないペッチから2度のダウンを奪って、興行を締め括った。「そういう選手にもこれまでKOしてきたので、気負わずKOできてよかった」と、中谷は涼しい顔で言う。今後については統一戦の期待が高まるが「チャンピオンなら誰でも。Who's next?って感じです」と語った。

 

 1ラウンド目は探るような静かな立ち上がりを見せた。「相手が来ることを想定し、ディフェンシブに戦いました」。45秒経過でようやく右のジャブを繰り出す。その後のジャブを繰り返したのち、一発の左ストレートで観衆を沸かせる。ひとつのブローで沸かせられる日本人チャンピオンは、中谷と世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)くらいなものだろう。いずれもアメリカの『リング・マガジン』が選ぶパウンド・フォー・パウンド(PFP)トップ10にランク入りする2人だ。

 

「相手の距離を勉強しながらパンチの入るタイミングを見極めていた」と中谷。自身と同じサウスポーのペッチに対し、右をうまく使いながら近距離での戦いを選択した。「近くでやった方が消耗させられる」とラウンドを追うごとに距離を詰める。そして結末は6ラウンドに訪れた。左の連打でキャンバスに沈めた。一度は立ち上がった挑戦者。観衆もそのガッツに「オーッ」と沸いたが、王者は冷静だった。「あまり効いている感じはしなかった。行き過ぎずニュートラルなまま」。ラウンドの残り10秒を知らせる拍子木が鳴った直後、左で仕留めた。レフェリーが試合を止め、中谷は2度目の防衛に成功した。

 

 PFPでNo.1になるためにはビッグマッチで名声を高める必要がある。中谷は「統一戦をやりたい」と希望を述べた。「注目が大きくなればなるほど期待も段々大きくなる。それを上回るのが僕の仕事。皆さんに何か感じてもらえるひとつのコンテンツだと思っている。そういったところを楽しみに待ってもらえる人が増えれば僕のパワーになる」。また待望論のある井上尚弥との対決について実現時期を問われると、「まだバンタム級なので」と笑って返した。

 

 世界戦2試合を差し置いてセミを任されるのだから、那須川への注目度の高さはメインイベント級だ。それは同会場で行われた前日のクアドラプル世界戦の入場者数が主催者発表で9500人に対し、この日は1万1000人も集めたことからも見て取れる。中谷、田中、オラスクアガという実力者を揃えていたとはいえ、那須川の集客力が寄与したことは間違いない。

 

 昨年4月のプロボクシングデビュー以来、初のタイトル戦に挑んだ那須川は9戦全勝のアシロとWBO地域王座をかけて戦った。3-0のユナニマス・デシジョンとはいえ“グラディエーター”の異名を取る23歳に苦戦したように映った。それでもキャリア最長の10ラウンドを経験したとポジティブな面もある。地域王座を手にしたことで日本プロボクシング協会が定めている日本国内での世界王座挑戦資格の内規をクリア。那須川は「もっと圧倒的に強くなって戻ってきたい」とさらなる成長を誓った。

 

 スーパーフライ級のWBO王者・田中は1-2の僅差の判定でベルトを失った。ボディを軸に攻めたがタフな相手を崩し切れなかった。5ラウンドでダウンを奪われるなど、ジャッジ2者が1点差(113-114)で挑戦者を支持した。プロキャリア2敗目。「こういう負け方は初めて。とても悔しい」。2020年の大晦日で井岡一翔(志成)に喫した初黒星との違いについて問われると「全然違う。悔しさしか残らない負け」と評した。今後については「この先は分からないとしか言えない」と話した。

 

(文/杉浦泰介、写真/大木雄貴)

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