3月11日に起きた東日本大地震における被害の大きさは計り知れない。この原稿を書いている被災4日目の14日においても被害状況がめまぐるしく変わっているありさまだ。大地震や大津波は以前から恐れられていたが、我々の技術や研究の積み重ねで克服したつもりになっていたのかもしれない……。あらためて自然の力の恐ろしさを知らされる。
 未曾有の災害を受けて国内で行われるスポーツイベントは次々と中止を決めている。
 サッカーのキリンチャレンジカップ、女子ゴルフツアー、名古屋国際女子マラソン、バレーボールVリーグ、日本バスケットボールリーグ……。おそらくこの先も増えていくだろう。聞くところによると、沖縄などである小さなランニング大会でさえ中止になっているとか。確かに「このタイミングでスポーツイベントとは何事か!?」というのは理解できる。「電気もろくに供給されていないのに余暇はないだろう」というのは当然の理屈だ。少なくとも今はすべてのエネルギーを被災地の救出作業に向けて欲しい。

 しかし、本当にこの先すべてのイベントを中止にするのが正しいのか?
 なにか、批判を恐れて委縮している姿を想像してしまうのは私だけであろうか?

 スポーツには人を勇気づける力がある。スポーツには人を元気にし、連帯感を高めてくれる力があるのだ。それは過去のオリンピックやビックイベントで証明されている。多くの人々が被災し、心が沈んでいる時だからこそ、そんなパワーが必要なのではないだろうか。

 音楽やスポーツを生業としている者は、こんな時こそ自身の影響力を発揮し、皆を元気にしたり、人を助ける事に力を貸すべきだと思う。

 海外のスポーツや文化関係者はこうした活動に迅速なのだが、今回は日本の関係者も早かった。注目すべきは400mハードルの為末大選手。これまでも社会的な発言で注目されていたが、今回はすぐに自ら先頭に立ってファンドレイジングしている。また、他のスポーツ業界にも声をかけて、その輪を大きく広げているのだ。さらに、自身のHPで<アスリートにできる事はまず人を励ます事、影響力を発揮して支援の輪を広げる事、そして大切なのは毎日のトレーニングを淡々と行う事です>とアスリート達に冷静な言葉を残している。彼の言うとおり、まず出来ることは自分の足元を固めながら、自分が持っている能力、ポジションを最大限に生かすことだろう。彼の言葉は焦る我々に的確なメッセージを送っている。

 私も彼の考えに賛成だ。ただ中止にするのではなく、ただ自粛するのではなく、それぞれの持っている影響力で被災者を元気にし、寄付金を集めるなどの能動的な活動を促進すべきだ。日本ではこのような活動に対し、必ずネガティブな意見が出るが、それを意識していたら何もできないし、「何もしない奴が正しい」というつまらない世の中になってしまう。そういう意味では為末選手のような選手個人での素早い行動は素晴らしい。一方、勇気ある決断を下した団体、組織もある。オープン戦を催行し売り上げを義援金にした巨人、全日本選抜大会開催を決めたレスリング協会、アジアカップ(横浜)の開催を決めた卓球協会などは大いに評価されるべきだろう。

 ちょうど、このタイミングで来日したシンディー・ローパーはこう言ってライブを予定通り開催する事を決定した。
「ライブを行うか悩んだが、私たちは歌うことが仕事。それで力を与えたい」

 日本のスポーツイベント関係者よ、アスリートよ、委縮するな!

 >>為末選手のチャリティサイト

 >>白戸太朗のチャリティサイト


白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)が発売中。
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