来たる3月12日(土)に都内最大のサイクリングイベント「Tokyo センチュリーライド葛西2011」が開催される。そのプレイベントとして、江戸川区で「自転車+健康+環境」というシンポジウムが2月5日に行われた。「せっかく自転車イベントやるなら、この機会に自転車と社会との共存を考える機会を持ちたい」という主催者の思いで開催。本大会の監修を務める私がパネリスト兼進行役だったのだが、このイベントはいろいろと考えさせられる絶好の機会となった。
 パネリストは、専門家の立場から元愛・地球博チーフプロデューサーで先進的な環境システムを提案されている福井昌平さん。行政の立場から江戸川区土木計画課長の立原直正さん。ジャーナリストの立場からバイシクルクラブ編集長の今坂純也さん。一般サイクリストの立場からスピードスケートショートトラッック元日本代表の勅使川原郁恵さん。そして私という面々。

 一番盛り上がったのが「自転車はどこを走るのか」という問題だ。軽車両である自転車は車道の左端を走ることになっているのだが、実際はこれがなかなか浸透していない。たとえ知っていても、ママチャリで車道を走ると怖い思いをすることがあるし、お巡りさんでさえ歩道を走っていたりする。車を運転する方も「車道を邪魔するな」といわんばかりにクラクション鳴らしたり、幅寄せしてくる輩がいる。まず、自転車に乗る人がそれを認識することは当然必要なのだが、それ以上に社会全体が「自転車は車道を走るもの」ということを理解しなければ、安心して車道を走ることなど不可能だろう。子供たちへの教育はもちろんだが、大人にもこの常識を訴えかけていくことが必要だ。
(写真:ハワイにおけるバイクレーン)

 NZなどでは「車は自転車と距離をとりましょう」という看板が、バスや壁に出ていたりしている。「(自転車)専門誌のPRでは限界があり、TVなどでそんなメッセージを流して浸透させて欲しい」と今坂編集長。ぜひ行政主導でこのあたりのムーブメントを起こしてもらいたい。また、車道脇が狭くて走りにくいという問題もある。自転車走行専用のブルーレーン設置なども始まってはいるが、細切れになっているのが実情で、使い勝手がよろしくない。イギリスなどでは「サイクリングネットワーク」が整備されており、全国に2万kmの道路が張り巡らされているという。「現在ある道路の歩道を削って自転車路側帯を作るわけには行かないし、車道を削って作ることにも反発がある。ここに日本での難しさがあるのです」と福井さん。欧米では車より自転車が優先されて考えられるが、日本はやはり車が中心なのだ。このあたりの考え方を変えていかない限りは、なかなか状況を変えにくいのかもしれない。
(写真:自転車と走り方を提唱してあるバス広告(NZ))

 そして話題は今回イベントが行われる荒川河川敷のサイクリング道路へ。ここは全長80kmあまりと関東圏では随一を誇る素晴らしい道だ。多摩川河川敷は分断されすぎて走りにくいし、江戸川は40kmあまり。全国でトップクラスのしまなみ海道でさえ往復140km程度というのだから、荒川がいかに恵まれているかよく分かる。しかし、現在この道では自転車のトラブルが多く、行政としても困っているという。最近は「荒川下流河川敷利用ルール」というのを作って啓蒙活動をしているそうだが、なかなか浸透していないようで状況は改善されていない。

「基本的に河川敷道路というのは誰のものでもありません。また公道でもないので道路交通法規でも対応できない……。だから散歩する人も、遊ぶ人も、自転車に乗る人もお互い配慮して使ってくださいというのが基本なのです」と立原さんは言う。確かにルールの中に「時速20km」というスピード制限が設けられているが20kmで怖いと感じる人もいれば、20kmでは遅過ぎて運転中にバランスが悪くなる人もいる。歩行者のすぐ横を駆け抜けていけば、20kmでも危ないし、マナーをわきまえているなら30kmで走っていても迷惑はかからない。また歩行者が道の真ん中を歩いていたり、飼い犬のリードを目一杯伸ばして道路をふさいでしまっているようなこともある。結局はやはり、使う人たちの心がけというところに戻ってしまうようだ。その心がけを守ってもらうために、やむを得ず「ルール」というガイドラインを作ることになる。すると今度はそのルールだけが一人歩きして、「20kmを守っていればOK」というような流れになってしまう。「そもそも普通の自転車にはメーターがついていないので、速度を言われても分かりません」と勅使川原さん。確かにメーターがついている自転車の方が少ない。大切なのは他の方に迷惑をかけないように走ることであり、スピード制限ではない。当たり前のはずなのに、いつの間にか規則に目を奪われ、本当の目的が忘れられてしまうのだ。

 公道であろうが河川敷であろうが、自転車に乗ってようと車に乗ってようと、その横を歩いていようと、皆がマナーとルールの意図を正しく理解していればこの問題は片付くのだが、それが難しいんだなぁ。
 そんなことを考えながら自転車でふらふらと走っていたら、車にクラクション鳴らされて転びそうになった。

「自転車は車道」、これはもう少し周知が必要なようで……。

>>Tokyoセンチュリーライド葛西2011HP

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)が発売中。
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