ルヴァン準Ⅴ、驚異の粘り腰。アルビレックスが見せた「景色」

facebook icon twitter icon

 YBCルヴァンカップ史上、歴史に残る名勝負となった。

 

 東京・国立競技場に6万2517人を集めた名古屋グランパスとアルビレックス新潟による決勝戦。グランパスが永井謙佑の2ゴールでリードしながらも、後半26分に谷口海斗のヘディング弾、アディショナルタイムに小見洋太のPKでアルビレックスが追いつく。延長戦に入って再びグランパスに勝ち越されながらも、怒涛の攻撃を展開してまたも小見が決めて同点にした。PK戦までもつれた末にグランパスが3年ぶり2度目の優勝を果たしたものの、アルビレックスの驚異の粘り腰が強く印象に残ったゲームではあった。

 

 ゲームのポイントは松橋力蔵監督の「交代」にあったように思う。

 

 後半20分に長倉幹樹、ダニーロ・ゴメス、星雄次の3枚を投入して流れを変え、その6分後に谷口のゴールにつなげると、指揮官はその直後、谷口と小野裕二を小見、奥村仁にパッと切り替えている。その際「お前ら若い力でひっくり返してこい! 何とかしてこい!」とハッパを掛けて送り出したという。後半27分までに5枚の交代カードを早めに使い切って、選手たちに攻撃の姿勢を促したことが実事に当たった形となった。

 

 松橋監督は試合後の会見でこのように語っている。

「負けているので5枚目のカードを早めに切って、その時間をやっぱりどう使っていくかというところはありました。延長に入ったことによって(6人目で、足がつっていた)舞行龍(ジェームズ)を交代させることができましたけども、やっぱそこの不安材料っていうのは延長に入る前からもありました。(5枚のカードを早々に使い切ったのは)ちょっと早かったかなと思いつつも、やっぱり取りに行かなきゃいけないというところでメッセージとして伝えないといけないと思いました」

 

 リードを許しているチームがよりエネルギーを使わなくてはいけないのがフットボールの常。残り20分近くあるなかで交代カードを使い果たすのは確かにリスクがあった。それでもピッチに残った橋本健人、藤原奏哉の両サイドバックをはじめ先発メンバーの彼らは走り切り、そして戦い切っている。途中交代したメンバーを含めてアルビレックス全体のインテンシティは落ちることなく、むしろ上がっていったくらいのイメージがあった。シュート数も22対10と圧倒している。

 

 大一番だから、それができたわけではない。指揮官のもと日々のトレーニングからしっかり鍛えられてきたからこその粘り腰であった。

 

「今年のスタートから“ポッシブル”という言葉を使って、俺たちは何をするにしても可能なチームなんだ、と。超えていかなきゃいけない境界線というものがあるなかで、きょうは一歩、右足を越えたかもしれない。でも左足を越えることは最後できなかった。それでも選手たちはよく頑張ってくれたと思います」

 

 悔しさをにじませながらも、選手の奮闘ぶりを満足そうに語った。

 

 松橋は横浜F・マリノスのユース監督時代にいくつものタイトルを獲得し、天野純、喜田拓也、遠藤渓太ら多くのタレントを育て上げた。トップチームのコーチ時代にはアンジェ・ポステコグルー監督のもと、2019年のリーグ制覇も経験している。

 

 22年にアルビレックスのヘッドコーチから監督に昇格。ポジショニング、ボール保持にこだわったアルベル前監督のベースを引き継ぎつつも、縦に速い攻撃と徹頭徹尾のハードワークを加味させて攻守に圧倒するスタイルを構築してきた。強度の高い攻撃サッカーは、ポステコグルーからの影響を感じてしまう。

 

 松橋の口癖は「練習の景色を変えていこう」だ。日ごろの練習から小さいミスであっても見逃さず、妥協を許さない。己にも厳しい目を向け、選手からも学ぼうとする。選手と同じ目線に立ってつくり上げてきたチーム。戦力的には決して十分とは言えないなか、就任3年目でようやくカップ戦のファイナルまでたどり着いた。

 

 景色というワードは、この日の会見でも飛び出した。

「我々が苦しいとき、どんなときでも見捨てずにサポートしてくださる方々のために、タイトルというものは残念ながら獲ることはできなかったですけど、少しは良い景色を見せてあげることはできたのかなとは思います」

 

 優勝したグランパスの面々が表彰台で喜ぶ姿を、松橋も選手たちもそしてサポーターたちもじっと見ていた。

 

 練習の風景から変えてきたなかで、Jのタイトルまであと一歩というところまでやって来た。近い将来、素晴らしい景色を手にするはず。そう感じさせてくれたアルビレックスの見事な戦いぶりであった。

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP