タフな環境と状況が己を伸ばす。菅原由勢、魂のゴール
日本代表が2026年の北中米ワールドカップ出場へ、早くも王手を掛けた。
アジア最終予選の11月シリーズ、アウェイ2連戦。まず15日、インドネシア代表を4-0で退けると、19日に中3日で先発メンバーを5人入れ替えて臨んだ中国代表との一戦にも3-1で勝利した。完全アウェイの厳しい状況のなか、しっかりと勝ち切るあたりにチームの成熟ぶりを感じる。
勝ち点を16まで伸ばし、続く2位オーストラリア代表は勝ち点7。3位以下のインドネシア代表、サウジアラビア代表、バーレーン代表、中国代表は勝ち点6で並んでおり、日本代表の独走状態となっている。次の3月20日、埼玉スタジアムでのバーレーン代表戦に勝利すれば、日本史上最速となる3試合残しての突破が決まる。
今回の2連戦において目を引いたのが、最終予選の戦いにおいてなかなかチャンスを与えられなかった選手たちの起用だろう。橋岡大樹、小川航基、瀬古歩夢、古橋亨梧、旗手怜央、大橋祐紀、そして菅原由勢。それぞれが自分の持ち味を発揮していくなか、中国戦で2得点を挙げた小川同様、インパクト十分だったのがインドネシア戦で後半から途中出場した菅原のゴールだ。
後半24分だった。右サイドにおいて伊東純也とのワンツーで抜け出してペナルティーエリア深く侵入する。クロスを呼び込むように味方が2人、ゴール前に入ってくるなかで菅原は角度のない位置からGKの動きをしっかりと見てから右足を振り切ってニアを射抜いた。キックに定評があり、パンチ力を備える菅原らしい一発。飛び出してきた控えメンバーに祝福され、森保一監督は手を叩き、ベンチにいた名波浩コーチも腕を突き上げた。
これまでずっと代表メンバーに名を連ねてきたが、3バックへの移行も伴って最終予選が始まってから1試合も出番がなかった。サウサンプトンでは右ウイングバックをこなしているものの、堂安律、伊東という攻撃的な選手が優先的に使われてきた。その意味において自分の攻撃力を短い時間ながらここで示すことができた意味は大きい。
試合後、ダゾーンのインタビューで彼はこう語っている。
「最終予選が始まってから自分自身、悔しい思いをこれまでしてきたし、きょうだってスタメンに自分の名前がなかったときは悔しかったし、やっぱりそういう気持ちが僕の原動力になっていると思う。何回も自分に対していらだちというか、ほかの人に矢印を向けそうになったときもありましたけど、やっぱりサッカー選手はピッチに立って自分を証明することが、日頃の結果につながると思っていた。きょうは途中から入ったら〝結果を残してやろう〟っていう気持ちで入ったので、結果を残せて良かった。しっかりサポートしてくれた人たち、監督も含めて選手もそうですけど、本当に常に励ましてくれたし、モチベーションを上げるための言葉をくれたので全員に感謝したいです」
熱い、熱いコメントだった。
チャンスをもらえないもどかしさを募らせながらも結局は己に矢印を向けて、出番を、そしてすぐさま結果をつかみ取ったわけだ。控えに回る選手が我慢しながらもしっかりと爪を研いで準備しているからチームは強くなる。菅原の活躍は、思ったように出場機会を得られていない選手にとっても大きな励みになったはずだ。
今季、菅原は5シーズンにわたってプレーしたオランダのAZアルクマールを離れ、2部から再昇格したサウサンプトンに移籍。プレミアは元々目指してきた場所でもある。チームは現在、最下位に沈み、菅原もレギュラーから控えに回るようになった。それでも途中から出てやるべきことをやろうとし、11月2日のエヴァートン戦では菅原が右サイドから決定的なパスを送って、初勝利に導くアシストをマークしている。この姿勢こそが、インドネシア戦でのゴールにもつながっている。
プレミアの開幕前、菅原にインタビューをした。高いレベルで日本代表との両立を図っていくという覚悟を彼は口にしていた。
「プレミアに来たのは、むしろタフな環境をこなすためというのも一つ。そういったなかでも最高のパフォーマンスを出し続けるようにならないといけない。逆に自分が強くなれるチャンスだと僕は捉えています。サウサンプトンからロンドンまでは近いし、ロンドンからは日本への直行便がある分、別に(両立が)きつくなるともまったく考えてないですね」
ハードであればあるほど、厳しい状況であればあるほどタフになって成長を呼び込むことができる。菅原は今まさにその最中にあると言えまいか。