19回目のJリーグ開幕が近づいてきている。93年の5月、10チームによる総当り4回戦方式でスタートしたリーグは、規模を大幅に拡張させ、いまや1部、2部ともにホーム&アウェー方式で運営されるリーグに成長した。課題、問題点は数多にあるにせよ、世界的に見ても稀有なスピードで成長してきたリーグであることは間違いない。
 さて、今年のJリーグにわたしがまず期待したいのは「グランパスがジャイアント・チームへの道を歩めるか否か」である。
 ブンデスリーガにはバイエルンがある。プレミアにはいわゆる“ビッグ4”が、スペインならばレアル・マドリードとバルセロナという2強が長く君臨している。アンチを生み出すほどの強烈にして強大な存在は、リーグを活性化させていくうえでの絶対条件である。
 だが、ここまでの18年間、日本にはそうした存在が生まれかけては消えというサイクルを繰り返してきた。創成期であればヴェルディ、21世紀に入ってからはレッズが象徴的存在に上り詰めつつあったが、いずれもプロ野球界における巨人のような存在にまではなれなかった。

“巨人的な存在”とは、すなわち大都市のチームであり、他を圧倒する資金力を持つチームであり、対戦相手がひときわ闘志を燃やしてくるチームである。
 グランパスは、その条件をほぼ満たしていた。豊田スタジアムという素晴らしいサッカー専用競技場も持っている。だが、昨年までの彼らは、Jリーグで勝ったことがなかった。他のチームのファンからすれば、絶対に倒さなければならない相手、ではなかった。

 巨人的な存在とは、周囲が作り出すものではない。当事者がそうなることを望み、結果が伴ってから初めて挑戦権が得られる立場である。もし今季、グランパスが連覇を達成するようなことがあれば、彼らは前人未到の立場に一歩近づくことになる。ピクシーとその仲間たちが現況から抜け出すのか、はたまた、もう一度リセットボタンが押されるのか。Jリーグにとっては、一つのターニングポイントになるであろうシーズンの開幕である。

<この原稿は11年3月3日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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