北海道日本ハムの黄金ルーキー斎藤佑樹のピッチングを見ていると今は亡き小林繁のそれを思い出す。
 小林といえば細身ながらムチのようにしなる右腕で巨人、阪神で通算139勝をあげた。沢村賞にも2度、輝いている。体型とは正反対の太く短い野球人生だった。

「オーバースローの斎藤とサイドハンドスローの小林、いったいどこが似ているのか?」
 そう、いぶかるムキもあるだろう。確かに投法は異なる。
 しかし、軸足の右足にグッと体重を乗せ、一度、沈み込むようにして投げる斎藤のフォームは、在りし日の小林の“生き写し”のように感じられるのだ。

 小林も斎藤も体格的に恵まれているわけではない。身長は小林が公称178センチ、斉藤は176センチだ。
 ふたりに共通しているのは下半身の強さだ。一度、小林の下半身を目にしたことがあるが、張りのあるいい筋肉をしていた。
 斎藤もそうだ。ユニホームの上からだが、太ももはパンパンに張っているように見える。単に太いのではなく、鍛え込んだ足である。
 軸足で立つ時間が長くなればピッチングも安定する。自分の“間”でバッターに相対することができるからだ。
 投手コーチをしていた頃、小林は「ピッチングで一番大切なのはタメをつくること」と語っていた。現役時代、小林は低く沈み込み、“ため”をつくってから、一気に右腕を振り抜いた。静から動へ――。これが小林の持ち味だった。

 今、日本でエースと呼ばれるピッチャーは皆、軸足で立っている時間が長い。日本ハムのダルビッシュ有しかり、東北楽天の田中将大しかり、広島の前田健太しかり。
 ピッチャーにとって軸足は家における大黒柱のようなものである。ここがグラつくようでは心許ない。逆に言えばここが安定していれば、後は微調整ですむ。斎藤は間違いなく1年目から活躍する、と私は考える。

<この原稿は2011年3月14日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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