「キレのあるストレートとキレの悪いストレートを投げ分けている」
ダルビッシュ有(北海道日本ハム)がマー君こと田中将大(東北楽天)に、そう告げたのは第2回WBCの時である。
実際にマー君とのキャッチボールでダルビッシュは二通りのストレートを投げ分けてみせたというのだ。
「キレのあるストレート」を意識、それを投げようとして工夫するのは分かる。しかしダルビッシュは「キレの悪いストレート」まで自在に操ることで、それを武器にしようと考えているのだ。こんな話、初めて聞いた。
マー君もびっくりしたようだ。
「こんな発想ができること自体、スゴイですよね。探究心が普通じゃない。実際に受けてみて(キレのあるなしが)なんとなくわかりました。きっと微妙にタイミングをズラしているんでしょうね。でも握り方とか、そこまでは僕もよくわかりません」
ダルビッシュが現在、日本一のピッチャーであることに異を唱える者はいないだろう。
それは、ここ4年間の防御率を見れば一目瞭然だ。
07年1.82。08年1.88。09年1.73。10年1.78。
打高投低のプロ野球界にあって、この数字は驚異的である。
果たして、「低反発球」に統一される今季、彼はどんな防御率を叩き出してみせるのか。
昨年の沢村賞投手・前田健太(広島)もダルビッシュ信奉者のひとり。
「ダルビッシュさんの話は今まで聞いたことないものばかり。変化球ひとつひとつとってもバッターの手元で曲がるものと、遠くで曲がるものを投げ分けられると。もう次元が違うんです。そのためにはどういうトレーニングをすればいいか、腕の振りはどうするか、(ボールの)握りはどうするか。それをいつも研究している」
まさに“平成の至宝”とでも言うべきダルビッシュだが、来季はもう日本にいないかもしれない。その雄姿をしかと目に焼き付けておきたい。
<この原稿は2011年3月21日号『週刊大衆』に掲載されたものです>
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