長く米スポーツ界最強のビジネスモデルと呼ばれてきたNFLが、3月中旬からロックアウトに突入してファンを落胆させてしまっている。
 新労使協定を巡るオーナー陣と選手会の話し合いは一向に進まず、3月4日の期限までに妥協案を見出すことはできずじまい。その後、デッドラインを引き延ばして交渉を続けたが、結局は決裂。3月12日にオーナー側は選手たちの練習施設などへの立ち入りを禁止するロックアウトの開始を発表した。
(写真:米メディアも「暗黒の日」と見出しを掲げてNFLロックアウト突入を伝えている)
 NFLのロックアウトは1987年以来24年ぶり。トム・ブレイディ、ペイトン・マニング、ドリュー・ブリーズといったスーパースターを含む10選手がその撤回を要求し、集団訴訟を起こしたことも大きなニュースとなっている。

 今回の労使交渉のポイントとなっているのは、まずはリーグの全体収入(今季は約7500億円)の分配比率。選手の取り分を現行の59.5%から41%に減らすことを主張するオーナー側に対し、50−50を望む選手会側は徹底的に反発している。
 またリーグはシーズン16戦制から18戦制に拡大することを検討しているが、これに対し「負担が大き過ぎる。選手寿命を縮める」という意見が選手たちから噴出。さらにルーキーの契約金の上限を巡る交渉も難航している。

「私たちは交渉の場から下りてはいない。選手会側が応じてくれれば交渉は再開されるだろう。ただ今は残念ながら選手会側との接触の機会が限られている」
 ロジャー・グッデル・コミッショナーは、3月15日にNFLネットワーク上でそうコメント。少々言い訳がましいそのセリフからは、両者の間の隔たりが大きく、前途は多難であることが伝わってくる。

「オーナー、選手とも自分たちのことしか考えていない。交渉が決裂すべき理由があるとは思わない。この結果に失望しているし、最大の被害者はファンだ」
 殿堂入りを飾った元ベアーズの名タイトエンド、マイク・ディトカ氏はそう語る。確かに交渉の推移を見ている限り、どちらが正義かと言ったジャッジを下すのは難しく、単に両サイドが意地を張っているようにしか見えない。簡単には折れられない互いのメンツも分かるが、交渉デッドラインを伸ばしながら、それでも妥協点を見出せなかった事実は、どうしても不細工に見えてしまう。

 ほぼ同じタイミングで、日本では痛ましい東日本大震災が勃発。被災者に少しでも援助をと、NFLも赤十字社を通して募金活動を開始している。しかしその一方でオーナーと選手が金銭の取り分を巡って争い続けているだけに、チャリティー活動にも説得力がないように感じられてしまう。

 ただ、来季の開幕は9月8日とまだしばらく先。ロックアウトに突入したとは言っても、来シーズンが流れることが決まったわけではない。そして幸いなことに、多くの関係者が未だに来季開催に楽観的な展望を語っている。
「もしシーズンを1試合でも流したらリーグも選手も莫大な損害を被ることになる。いくら何でもそんな愚を犯すとは考え難い。ロックアウトはオフシーズンだけで、8月のプレシーズン戦開始までに解決するのではないか」
 事情通で知られる「ニューヨーク・デイリーニューズ」紙のゲイリー・マイヤーズ記者は、自身のコラム内でそう記述していた。
(写真:プレシーズン、レギュラーシーズンともに試合開催に影響はなさそうという見方がされているが……)

 実際にシーズンでわずか16戦しかないNFLでは、1試合ごとの重みはハンパではない。数戦でも流れれば大幅な減収は計り知れないだけに、「選手、オーナーともにそこまで愚かではないだろう」という見方は正しいのだろう。
 もしマイヤーズ氏や他の多くの識者の読み通りになれば、現実的にファンが被る損害(=試合が観られない)はゼロ。そんな予測が一般的に広がっているだけに、真剣に怒りを表現したり、深刻に懸念しているファンはまだ少ないのが実情だ。

 しかしいずれにしても、両サイドが真っ向から対立している現状が健康的ではないことは間違いない。たとえプレシーズン戦までに交渉終結は必至と言っても、ロックアウトの長期継続はイメージ的にも悪い。特に前述通り、海の向こうでは想像を絶する形で苦しんでいる人々がいるのを目にしているだけに、「恥ずかしい」と話すスポーツファンはニューヨークにも多かった。

「しばらく交渉が再開されることはないだろう。両者とも法的な駆け引きがどう展開されるのか見ている段階だ」
 インディアナ大学法学部のゲイリー・ロバーツ学長は、そのように分析しているという。しかしファンは、フィールド外のマネーゲームになど興味はない。そこから得るものなど何もない。
(写真:全米のスタジアムに灯が戻るのはいつになるか(写真はフィラデルフィア・イーグルスの本拠地))

 今はとにかく1日でも早く、気分の悪い「ミリオネアー同士の駆け引きと意地の張り合い」に終止符が打たれることを願うばかりである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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