第191回 2011年メッツ、3つのポイント
過去2年、どん底の不振に悩んだメッツが、再出発のシーズンを迎えている。
このオフの間にサンディ・アルダーソンが新GMに、テリー・コリンズが新監督に就任。厳格さには定評ある2人を「保安官役」として抜擢し、チーム内に溜まった膿みを出そうという狙いだったのだろう。
(写真:メッツで2年目の五十嵐亮太はコリンズ監督の下で存在感を示せるか Photo by Kotaro Ohashi)
ただそんな矢先、オーナーが投資詐欺事件絡みの訴訟に巻き込まれたことが発覚。球団身売りすら囁かれる状況で、フレッシュスタートが難しくなったことは言うまでもない。さらにロースターを見渡しても、懸念材料が少なからず見え隠れする。このチームの代名詞と言える「負の連鎖」は、今季も続いてしまうのか。浮上に向けて必要なことは何か。今回は注目のポイントを、3つに絞って挙げていきたい。
【レイエス、ベルトランは輝きを取り戻せるか】
これまでメッツの看板として活躍してきたカルロス・ベルトラン、ホゼ・レイエスの2人は、今季、それぞれ契約最終年を迎える。
かつて「リーグ有数の5ツールプレーヤー」と呼ばれたベルトランだが、昨季は故障で出場は64試合のみ。快足を武器に数年前までは「メジャーで最もエキサイティングな選手」の名を欲しいままにしたレイエスも、ここ2年はやや精彩を欠いてしまっている。以前のみずみずしさを失ってしまったという点は、2人に共通していると言ってよい。そんな状況では、彼らがシーズン中に放出される可能性が取り沙汰されているのもやむを得ないところである。
(写真:決して評価が高いと言えないメッツが浮上するには核弾頭レイエスらのMVP級の働きが必要になるかもしれない)
ただ、それでもベルトラン、レイエスは好調時にはチームを独力で支えられるほどの働きができることも、すでに証明されている。契約最終年の今季はモチベーションも高いはず。そして常にケガの多い2人が、今季はコンディションも完調に近づいていることを明言している。だとすれば、心機一転の2011年、ベルトランかレイエスのどちらかがモンスターシーズンを過ごしても驚くべきではないのだろう。逆に言えば、メッツが周囲の予想を覆してプレーオフ争いに絡むとすれば、彼らの復活がどうしても必要。ニューヨークでの最後のシーズンとなる可能性が低くない今季、2人の俊才はどんな1年を過ごすことになるのだろうか。
(写真:これまでセンターのポジションにこだわってきたベルトランがプライドを捨ててライト転向を申し出たのは良い兆候か)
【先発4、5番手は誰が務めるのか】
昨年9月に左肩に手術を受けたヨハン・サンタナは、夏近くまで戦列を離れることが確実。おかげでローテーションは舵取り役を欠いたまま、2011年の開幕に臨まなければならない。
押し出されて代役エースを務めるのは、昨季15勝を挙げた大型右腕マイク・ペルフリー。さらにナックルボーラーとして開花したRA.ディッキー(昨季11勝)、成長株のジョナサン・ニース(同9勝)の3人までは先発としてある程度の信頼は置ける。ただ、その後の4、5番手が未知数だ。魅力的なタレントを数多く抱えるメッツだが、それでもプレーオフコンテンダーとして真剣に捉えられてはいないのは、この先発投手不足が原因である。
穴埋めとして期待されているのが、パドレス時代の2007年にはオールスター出場の実績を持つクリス・ヤング。208cmの長身投手ヤングはフライを打たせるピッチングが特徴で、広大なメッツの本拠地シティ・フィールドとの相性は良さそう。あとはここ数年悩まされてきた肩痛から解放されれば、貴重な戦力と成り得るかもしれない。
(写真:シティフィールドは投手に有利なスタジアムとして知られる)
それ以外の候補は、2005年に18勝を挙げたことがあるクリス・キャプアーノ、2008年オフに3年契約を与えられて以降はやる気をなくしたオリバー・ペレス、昨季5度の先発機会で防御率2.18と健闘したディロン・ジー。この中から1、2人が嬉しい誤算となって、サンタナが戻ってくる季節まで何とかプレーオフへの望みを繋ぎたいところである。
【コリンズ監督は適任なのか】
やや怠惰な空気が浸透してしまったメッツのクラブハウスを引き締めるため、コリンズが新監督に選ばれたのはある意味で理解できるところではある。
もともと厳格な指導と緊張感あふれる態度で知られる人物。「メッツに成功をもたらすためなら何でもやる」と実直に語るそのエネルギーは、近年、このチームに決定的に欠けていたものではあった。
「アジアの選手たちは基本ができていて、細かなミスを犯さない。パワーはなくとも守備は良いし、攻撃面でもバント、ヒット&ランなどを上手に使ってパワー不足をカバーする。バントはメッツにも取り入れて行きたいね」
コリンズはそうも語り、スモールボールの導入も明言。五十嵐亮太、台湾人のフー・ジンロォンといったアジア人選手たちにとっても、今季はより力を出しやすくなるかもしれない。
ただ、就任会見時のあまりにもハイパーな態度を見て、ファンの間から「コリンズはニューヨークに適した指揮官なのか」という疑問が沸き上がった面は否めない。情熱家ながら適応能力に欠けるコリンズは、エンゼルス監督時代の1999年には選手から総スカンを喰って退陣。2007〜08年にはオリックスで指揮を執るも、成功を手にできなかったことは日本のファンの記憶に新しいはずだ。
そんな新監督は、メディア、ファンからのプレッシャーが厳しいニューヨークでサバイブできるのか。連敗など喫して不穏な空気が漂ったときなど、選手と上手く対話し、記者の質問も巧みに交わし、チームをポジティブな方向に導けるのかどうか……。「再建の旗手に熱血漢を」との意図は分かるが、リスクの大きな起用にも思える。主力のトレードの噂やオーナーシップの問題に取り巻かれた今季は、波乱の匂いも色濃く漂ってくる。いずれにしても退屈なシーズンにはならないだろう。そしてその中で、メッツが正しい方向に進んでいくために、コリンズの仕事が重要であることは疑いもない事実なのである。
杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。
※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
※Twitterもスタート>>こちら
このオフの間にサンディ・アルダーソンが新GMに、テリー・コリンズが新監督に就任。厳格さには定評ある2人を「保安官役」として抜擢し、チーム内に溜まった膿みを出そうという狙いだったのだろう。
(写真:メッツで2年目の五十嵐亮太はコリンズ監督の下で存在感を示せるか Photo by Kotaro Ohashi)
ただそんな矢先、オーナーが投資詐欺事件絡みの訴訟に巻き込まれたことが発覚。球団身売りすら囁かれる状況で、フレッシュスタートが難しくなったことは言うまでもない。さらにロースターを見渡しても、懸念材料が少なからず見え隠れする。このチームの代名詞と言える「負の連鎖」は、今季も続いてしまうのか。浮上に向けて必要なことは何か。今回は注目のポイントを、3つに絞って挙げていきたい。
【レイエス、ベルトランは輝きを取り戻せるか】
これまでメッツの看板として活躍してきたカルロス・ベルトラン、ホゼ・レイエスの2人は、今季、それぞれ契約最終年を迎える。
かつて「リーグ有数の5ツールプレーヤー」と呼ばれたベルトランだが、昨季は故障で出場は64試合のみ。快足を武器に数年前までは「メジャーで最もエキサイティングな選手」の名を欲しいままにしたレイエスも、ここ2年はやや精彩を欠いてしまっている。以前のみずみずしさを失ってしまったという点は、2人に共通していると言ってよい。そんな状況では、彼らがシーズン中に放出される可能性が取り沙汰されているのもやむを得ないところである。
(写真:決して評価が高いと言えないメッツが浮上するには核弾頭レイエスらのMVP級の働きが必要になるかもしれない)
ただ、それでもベルトラン、レイエスは好調時にはチームを独力で支えられるほどの働きができることも、すでに証明されている。契約最終年の今季はモチベーションも高いはず。そして常にケガの多い2人が、今季はコンディションも完調に近づいていることを明言している。だとすれば、心機一転の2011年、ベルトランかレイエスのどちらかがモンスターシーズンを過ごしても驚くべきではないのだろう。逆に言えば、メッツが周囲の予想を覆してプレーオフ争いに絡むとすれば、彼らの復活がどうしても必要。ニューヨークでの最後のシーズンとなる可能性が低くない今季、2人の俊才はどんな1年を過ごすことになるのだろうか。
(写真:これまでセンターのポジションにこだわってきたベルトランがプライドを捨ててライト転向を申し出たのは良い兆候か)
【先発4、5番手は誰が務めるのか】
昨年9月に左肩に手術を受けたヨハン・サンタナは、夏近くまで戦列を離れることが確実。おかげでローテーションは舵取り役を欠いたまま、2011年の開幕に臨まなければならない。
押し出されて代役エースを務めるのは、昨季15勝を挙げた大型右腕マイク・ペルフリー。さらにナックルボーラーとして開花したRA.ディッキー(昨季11勝)、成長株のジョナサン・ニース(同9勝)の3人までは先発としてある程度の信頼は置ける。ただ、その後の4、5番手が未知数だ。魅力的なタレントを数多く抱えるメッツだが、それでもプレーオフコンテンダーとして真剣に捉えられてはいないのは、この先発投手不足が原因である。
穴埋めとして期待されているのが、パドレス時代の2007年にはオールスター出場の実績を持つクリス・ヤング。208cmの長身投手ヤングはフライを打たせるピッチングが特徴で、広大なメッツの本拠地シティ・フィールドとの相性は良さそう。あとはここ数年悩まされてきた肩痛から解放されれば、貴重な戦力と成り得るかもしれない。
(写真:シティフィールドは投手に有利なスタジアムとして知られる)
それ以外の候補は、2005年に18勝を挙げたことがあるクリス・キャプアーノ、2008年オフに3年契約を与えられて以降はやる気をなくしたオリバー・ペレス、昨季5度の先発機会で防御率2.18と健闘したディロン・ジー。この中から1、2人が嬉しい誤算となって、サンタナが戻ってくる季節まで何とかプレーオフへの望みを繋ぎたいところである。
【コリンズ監督は適任なのか】
やや怠惰な空気が浸透してしまったメッツのクラブハウスを引き締めるため、コリンズが新監督に選ばれたのはある意味で理解できるところではある。
もともと厳格な指導と緊張感あふれる態度で知られる人物。「メッツに成功をもたらすためなら何でもやる」と実直に語るそのエネルギーは、近年、このチームに決定的に欠けていたものではあった。
「アジアの選手たちは基本ができていて、細かなミスを犯さない。パワーはなくとも守備は良いし、攻撃面でもバント、ヒット&ランなどを上手に使ってパワー不足をカバーする。バントはメッツにも取り入れて行きたいね」
コリンズはそうも語り、スモールボールの導入も明言。五十嵐亮太、台湾人のフー・ジンロォンといったアジア人選手たちにとっても、今季はより力を出しやすくなるかもしれない。
ただ、就任会見時のあまりにもハイパーな態度を見て、ファンの間から「コリンズはニューヨークに適した指揮官なのか」という疑問が沸き上がった面は否めない。情熱家ながら適応能力に欠けるコリンズは、エンゼルス監督時代の1999年には選手から総スカンを喰って退陣。2007〜08年にはオリックスで指揮を執るも、成功を手にできなかったことは日本のファンの記憶に新しいはずだ。
そんな新監督は、メディア、ファンからのプレッシャーが厳しいニューヨークでサバイブできるのか。連敗など喫して不穏な空気が漂ったときなど、選手と上手く対話し、記者の質問も巧みに交わし、チームをポジティブな方向に導けるのかどうか……。「再建の旗手に熱血漢を」との意図は分かるが、リスクの大きな起用にも思える。主力のトレードの噂やオーナーシップの問題に取り巻かれた今季は、波乱の匂いも色濃く漂ってくる。いずれにしても退屈なシーズンにはならないだろう。そしてその中で、メッツが正しい方向に進んでいくために、コリンズの仕事が重要であることは疑いもない事実なのである。
杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。
※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
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