森保ジャパン「2連戦の初戦」の壁を乗り越えられた要因とは
2024年における日本代表の全日程が終了した。
優勝を期待されたAFCアジアカップはベスト8で終わったものの、9月からスタートした2026年北中米ワールドカップ・アジア最終予選はロケットスタートに成功してここまで5勝1分けの勝ち点16。2位以下を大きく引き離しての独走状態に入っている。
今回の特徴として一つ言えるとすれば、「2連戦の初戦」をしっかり勝ち切っていること。前回の最終予選は9月にホームでオマーン代表に、10月にアウェイでサウジアラビア代表に2連戦の初戦で敗れ、窮地に立たされた。欧州組がメンバーの大多数を占める現状、集合しても準備期間が短いために2連戦のうち一発目の試合はどうしてもパフォーマンスが上がっていかないというジレンマがつきまとっていた。事前に相手のスカウティング情報などを個々に伝えるなど、できる限りの準備をすることでその後は何とか克服してカタールワールドカップ出場につなげている。
同じ課題を突きつけられたなか、9月はホームで中国代表に7-0と圧勝し、10月は〝鬼門〟のジッダでサウジアラビア代表に2-0、11月は同じくアウェイでインドネシア代表に4-0と「2連戦の初戦」においてきっちり勝ち点3を積み上げている。
長距離移動を伴い、かつ時差や環境の違いもある。なぜ短い時間で最高の準備ができているのか――。
9月の中国との一戦は、森保一監督の要望を受けた宮本恒靖会長が動き、欧州組の移動のためにチャーター機を用意したことが大きかった。日曜日に試合をする選手が11人もいたため、通常便での移動となると全員がそろって戦術練習に取り組めるのは1日だけであった。チャーター機使用によって全体練習にもう1日充てることができ、かつ全体ミーティングを2回増やせることができた。
9月下旬、森保監督に話を聞いた際このように語っていた。
「もし前日練習だけなら、スタジアムでの公式練習になるので1時間しかやれない。セットプレーを含めてバタバタと詰め込むしかありません。戦術的な確認を落ち着いてやるというより、コンディション調整を中心にせざるを得ない。
それが1日増えるわけです。おかげで火曜日は攻撃に特化したトレーニングができ、スタジアムでの前日練習は守備とセットプレーを1時間のなかでやり切れた。2日に分けられたことで、より広く、より深く選手と共有できました。練習のなかで試合をイメージして不具合が起こればコーチと選手、または選手同士でディスカッションしながら修正していくことができたんです」
トレーニングとミーティングが増えたといっても、わずか1日分だけである。最大限に有効活用できる強みが、今の森保ジャパンにはある。
2日間のトレーニングでどのように落とし込んでいくか。中国代表の情報をスカウティングスタッフから得たうえで事前に何度もスタッフミーティングを重ねたうえでトレーニングメニューを決めている。
それでも詰め込みすぎず、かつ、選手たちの反応を見ながら臨機応変にしているのがキーポイントだ。実際、2日前の練習は守備のメニューも組み込まれていたというが、全体の流れを見たうえで攻撃オンリーにしている。
「選手に10のことを伝えたいけど、そのまま10伝えたら効果が薄まるなと感じたら敢えて5にしたり、3にしたり。準備に厚みを持たせたうえで、練習ではこれは必ずやるとか、ミーティングではこれは優先して伝えるとか、コーチ、スタッフが緻密に準備してくれているからやれること」
9月の中国戦を振り返ると、2点目のシーンとなった逆サイドのポケットを狙った攻撃をはじめ、攻撃特化のトレーニングが功を奏したのは明らかであった。
コンディション面においても指輪型機器で睡眠時間と睡眠の質、脈拍をチェックして疲労度を把握。指揮官はメディカルから上がったデータをコーチ陣と共有したうえで、トレーニングの負荷を調整している。
短い時間のなかでポイントを押さえた戦術の落とし込み、そして繊細なコンディション調整によって2連戦初戦の壁をうまく乗り越えることができた。10月のサウジアラビア戦、そして飛行機が折り返すというトラブルに巻き込まれながらも動じなかった11月のインドネシア戦もまた然りである。
次戦は来年3月20日、埼玉スタジアムでのバーレーン代表戦。ここでも「2連戦の初戦」で強さを発揮することができれば、日本史上最速となる3試合残しての突破が決まる。