しゃべり出したら止まらない。球界の“二大おしゃべり”と言えば、東北楽天前監督の野村克也と中日・落合博満監督だろう。
 ただ、この二人には決定的な違いがある。
 ノムさんが、多少の好き嫌いはあるにせよメディアを選別しないのに対し、落合は自らが心を開いた人間としか話さない。だから落合の本音は世間には伝わりにくい。

 それを案じてか、過日、TBSの「S☆1」というスポーツ番組でノムさんが落合にこんなアドバイスを送っていた。
「試合が終わってから、(落合は)記者にしゃべらないっていうんで、記者困ってんだよ」
 これに対する落合の答えが振るっていた。
「記者連中、野球を理解しようとしないもん」
 さらにノムさんは突っ込みを入れる。
「しゃべってあげなさいよ。野球を教えてやるんだよ」
 先輩のありがたいアドバイスに対しても落合は一歩も引かない。
「ノムさん、この年になったから、理解してくれりゃいいけど。野球界で一番マスコミの紙面の作り方で嫌いなのが、監督が先にくるでしょ。例えば、野村・楽天だとか。(一面には)選手行けよって」
 ここまで言われたら、ノムさんも黙っていられない。
「その論理はおかしいんじゃない。監督はリーダーやん。今日の先発を決めたのは監督やん」
 ここから先は売り言葉に買い言葉。
「ウチ、(先発決めるのは)ピッチングコーチだよ」
「ピッチャーだけだろ、そりゃ。最終的には確認するでしょ」
「監督ばっかり毎日一面にいるようじゃダメだって」
「いや、いいんだよ。あなたは黙って、マスコミにサービスしなさい」
 ここだけ読むと。大方の読者は「二人は不仲なのか」と気をもむだろうが、これが大の仲良しなのだ。互いに気を許しているから本音でブツかり合うことができるのだ。

 以前、落合についてノムさんはこう語っていた。
「落合は僕以外の人間とは、誰ともしゃべらんそうですね。
 なんで僕に共感を持ってくれるのか知らないんだけど、ナゴヤドームに行くと必ず(中日の)マネージャーが僕を呼びにくるんです。“すいません、ウチの監督が呼んでいますから”って。
 まぁ話といったって野球の話ばっかりですけどね。うん、100%野球の話。練習が終わってからでも話し続ける。それくらい、野球が好きなんでしょうね」

 推測するに落合は第2回WBCでの日本代表監督人事に対する野村発言に気を良くしたのではないか。
 3年前の秋、WBC体制検討会議が都内で開かれ、加藤良三コミッショナー、福岡ソフトバンク・王貞治最高顧問、阪神・星野仙一SD、東京ヤクルト・高田繁監督、元広島・野村謙二郎(肩書きはすべて当時)、そしてノムさんの6人が出席した。
 この時点では北京五輪代表監督を務めた星野のWBC監督就任が濃厚と見られていた。
 これに異を唱えたのがノムさんだった。
「落合が候補に挙がっていないのはおかしいな」
 結局、巨人監督の原辰徳が代表監督に就任し、連覇を果たすことになるのだが、以前から野球観の近いノムさんに落合がさらに好意を深めたのは間違いあるまい。
 この落合擁護発言に一番カチンときたのは星野だろう。暗に「監督としての能力は星野よりも落合の方が上」と言われたようなものだからだ。

 次のインタビューからもノムさんへの対抗心がチラリと透けて見える。
 記者の<野村監督の「弱者が強者に勝つ野球」と、星野監督の「弱者を強者にする野球」は好対照ですね>という質問に星野はこう答えている。
<全体的な野球感性は似ているけどね。批判になるが、「弱者が強者に勝つ」というのは面白いが長続きしない。ずっといい勝負ができるかといったら結局、弱者で終わる。レベルアップしなければ対等に戦えない。ただ、前任者は必ずいいモノを残している。それを引き継いでいく>(朝日新聞2月19日付)

 ノムさんが野球の本質は18・44メートルの中にあるとする「配球原理主義者」であるのに対し、星野はGM的な手法を用いてチームの強化を図る。ことグラウンド外での政治力となると星野の右に出るものはいない。
 十人十色。いろんなタイプの監督がいるからこそプロ野球はおもしろいのだ。

<この原稿は2011年3月25日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

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