47歳のサウスポー、工藤公康は目下、浪人中である。まだ現役復帰を諦めていない。
右足のふくらはぎ、左ヒジ、左肩に不安があるため投球練習はしていないが、毎朝、横浜市内の自宅近くをジョギングしている。
その工藤とBS朝日の番組『勝負の瞬間(とき)』の収録で先頃、会った。この番組は私がインタビュアーを務めている。
「野球がおもしろくなってきたのは40歳を過ぎてから」
工藤は意外なセリフを口にした。ということは、それまではつまらなかったのか。
「元来、僕は野球が好きじゃなかったんですよ。30代までは周囲の期待が大きいせいか、やらなきゃいけないという責任感が強くて苦しかった。40代に入って、いつ辞めてもいいから目の前のことをしっかりやろうと吹っ切れました」
工藤はそう答えた。
昨季までに224勝(142敗3セーブ)をあげている。年代別勝利数は次のとおり。10代=1勝、20代=86勝、30代=97勝、40代=40勝。4つの年代にまたがって勝ち星を挙げたピッチャーはそうはいない。
実動29年はプロ野球史上最長。2009年7月にはセ・リーグ最年長勝利記録(46歳1カ月)を更新した。
これだけの記録を残しながら、工藤には“やり切った感”がない、という。まだまだ成長できると考えているのだ。
「この年齢になって、本当に現役は無理なんだろうかと思うんです。やってみたら意外とできるかもしれない。クビになったといっても、まだ2球団(横浜と埼玉西武)だけ。すべての球団からクビと言われたわけではない」
現役に未練たっぷりの工藤だが、しかし今年の5月に48歳になるロートルに興味を示す球団はない。本人は米国でプレーする夢を持っているが、肝心のヒジや肩がボロボロでは、そう簡単にマウンドに立つチャンスは得られないだろう。
そこで提案だが、日本の独立リーグでプレーするのはどうか。現在、この国にはBCリーグ、四国アイランドリーグPlus、関西独立リーグと3つの独立リーグが存在する。
そこで体をつくり、健在ぶりを証明すれば実績のあるサウスポーだけに触手を伸ばす球団が現れるかもしれない。
ちなみにNPBでの支配下選手登録は今季途中でも7月31日まで可能である。サウスポーが手薄なチームは工藤の動向に注意を払っているはずだ。
ちなみに元阪神の金村曉はBCリーグの信濃グランセローズで練習しながら、どこかから声がかかるのを待っている。このように独立リーグをトランジットに使うのもひとつの方法ではある。
工藤には目標がある。元阪急の浜崎真二が持つ最年長勝利記録(48歳4カ月)を破ることだ。工藤が40歳になったばかりの頃、この話をすると「それは無理ですよ」と語っていた。しかし今、この記録は手を伸ばせば届くところにある。
<この原稿は2011年4月10日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>
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