4月22日に予定されている開幕を約1カ月後に控え、伊予銀行女子ソフトボール部は現在、オープン戦で各地を転戦している。太陽誘電とのオープン戦(15日)、「第8回マドンナカップ」(16〜18日)、岡山オープン大会(20〜21日)、神戸親和女子大学とのオープン戦(26日)……。開幕まで行なわれる試合の数は昨年の倍にも達するという。「最終コーナーを回りつつある」という酒井秀和監督。果たして、10年ぶりに指揮官に復帰した酒井監督の目に今、チームはどう映っているのか――。

「結構、手応えをつかんでいますよ」と酒井監督。その“手応え”の一つには、若手選手の成長があるようだ。これまでベテラン選手に頼り切っていた若手選手だが、ここにきて「自分たち一人ひとりがやらなければいけない」という自覚が芽生え始めているという。個々のモチベーションが高まることでチーム内がより活性化することは言を俟たない。指揮官は技術のみならず、メンタル面においてもチームの底上げを感じつつある。

 今シーズンの目標はもちろん、2部で優勝し、1部リーグへの復帰だ。そのためにはチームの大黒柱的存在である前キャプテンの川野真代選手、副キャプテンの矢野輝美選手、エースの坂田那己子選手といったベテラン勢の活躍は不可欠だ。しかし、それだけではチームの成長はない。やはり、若手の台頭が必要である。末次夏弥、山田莉恵、池山あゆ美、川口茜……指揮官の口からは次々と今シーズン、活躍が期待できる選手の名前が挙がった。その中には入社以来、大半をベンチで過ごした選手の名前もあった。入社4年目、内野手の宇佐美彩選手だ。

 彼女の名前を初めて聞いたのは2008年2月、宮崎で行なわれた合宿でのことだ。その年の4月からの入社が決定していた彼女は、他の内定選手3人とともに合宿に参加した。そこで大國香奈子前監督から「一番負けず嫌いで根性がある選手」と評されたのが、宇佐美選手だった。当時からグラブさばきが巧く、バッティングもミート力に長けていた宇佐美選手だったが、まだ実業団のスピードにはついていくことができなかった。当時、ショートを守っていた彼女は、レギュラーの中田麻樹選手とともに特守を行なった。しかし、スピード、スタミナともに中田選手との差は明らかだった。それでも彼女は決してやめようとはしなかったという。

「もう体はボロボロで足は止まっているんです。それでも顔をグシャグシャにしながらも私に向かって“もう1本!”と言うんですからね。根性ありますよ」
 電話口から聞こえる大國前監督の声は、彼女への期待感に満ち溢れていた。その宇佐美選手が今シーズンは、セカンドのレギュラーを獲得したという。3年間の努力がようやく実を結んだのだ。
「彼女は走攻守、どれもいいですよ。練習試合で結果も出ているし、もう、生き生きとプレーしています」。新指揮官の期待も日に日に増しているようだ。

 成長著しい若手選手は宇佐美選手だけではない。バッティングの良さを買われ、昨シーズンはDPのポジションを不動のものとした川口選手は、今シーズン、ライトのポジションを任されている。今オフには最も多くのノックを受け、苦手としていた守備にも自信をつけた。さらにバッティングも単に大きいのを打つだけでなく、小技も身につけ、オールラウンダーのプレーヤーに生まれ変わった。素質の高さはお墨付きだけに、さらなる飛躍が期待できそうだ。

 入社以来、“控え捕手”から脱することができていなかった池山選手だが、その要因の一つにはバッティングがあった。チームの中でもがっしりとした体格の持ち主である池山選手は、それゆえに上体の力だけに頼ってスイングするクセがあった。しかし、今オフにバッティングフォームの改善に取り組み、現在は下半身から始動するフォーム固めに余念がない。練習試合では徐々に結果が表れてきており、それがリード面にも好影響を与えているという。1年先輩の藤原未来選手との正捕手争いは、昨シーズン以上に熾烈となりそうだ。

 また、下からの追い上げも彼女らのモチベーションを上げているのだろう。今シーズンは3人の新人選手が入った。捕手の小西智子選手、内野手の山あずさ選手、外野手の上田彩生選手だ。既にチームに合流し、先輩らと汗を流している。
「小西は雰囲気のある選手ですね。彼女が出ると、その場が和やかになるんですよ。リード面でも、バッティングでも思いっきりがいいですしね。間違っても気にしない。とにかく元気のかたまりのような選手です。ショートの山は守備がいい。がっしりとしているから、懐が大きいんです。センター線に大型選手がいるのといないのとでは、バッターへのプレッシャーが全く違いますからね。ガッツもあるし、これからが楽しみですよ。それから唯一大卒の上田は3人の中でもお姉さん的存在で、新人選手の精神的支柱となってくれています。もちろん、裏方の仕事も手を抜かずにやってくれるので、いい見本となっていますよ。それと研究熱心ですね。先輩選手のプレーをよく見て、取り入れようとする姿勢が見受けられます。こういう選手は殻を破ると、大化けするんですよ」

 現在、チームはオープン戦まっただ中。開幕に向けて着々と準備を進めている。監督と選手との絆も深まり、チーム全体がいい雰囲気に包まれているようだ。
「あとは実戦の中で、どれだけ私と選手が考え方を共有することができるか。徐々に“こういう場面ではこうだな”と、私がサインを出さなくても選手自身が気づいてくれるようになってくれれば……」
 4月22日、新生・伊予銀行が新たな一歩を踏み出す。


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