羽生結弦は考えるきっかけを与えてくれる人

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「答えを出してほしいのではなく、考えてもらいたい。考えるきっかけの1つであってほしい」

 

 上記のコメントは、プロフィギュアスケーター・羽生結弦が発したものだ。昨年11月4日、さいたまスーパーアリーナで行なわれた 「ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOUR」埼玉公演初日の後、囲み取材で語っていた。

 

 RE_PRAYのコンセプトは、羽生がゲームからインスパイアされたものが軸となっていた。彼は初日後の囲み取材で、こう述べた。

 

「自分自身、ゲーム、漫画、小説などから、自分の人生ってなんだろう、命って尊いものだなと、皆さんが感じるようなことを僕もいろんな作品から受け取っている。

 ゲームの中は、命という概念がある意味軽い。繰り返しできるからこそキャラクターを使い好奇心のままにプレイできる。それって、現実の世界に当てはめてみたら、夢を掴みにいく原動力のある人間かもしれないけど、違う観点から見たらとても恐ろしい人間かもしれない。きっと(人生でもゲーム同様に)繰り返しできるとしたら、人はやるんだろうな、と考えていました。

 自分が選んできた選択肢がある。その選択の先に破滅というルートがあったとする。すべての障害を乗り越えて夢を掴む、目標を達成する人生があるとしたら、皆さんは何を選び、何を感じるのかな? とこのアイスストーリーの中で、考えてもらいたい」

 

 12月7日が迫ってきている。「ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR」で羽生は、どんなきっかけを与えてくれるのだろう。いまから楽しみにしている人も多いのではないか。

 

 第3弾の幕が上がる前から、すでに羽生は考えるきっかけを与えてくれた。“Echoes of Life”のオフィシャルサイトに掲載されている羽生のメッセージ。<私たち自身を見失ってしまうような、情報に溢れた社会>というワードが、情報を発信する者として強烈に胸に刺さった。この文から、羽生が過去にあげたインスタグラムの投稿を連想した。

 

 2023年12月26日の投稿。心苦しくなり、目を覆いたくなる内容だった。くしゃくしゃに丸めた用紙、改行の具合、そして文章から彼の怒りが伝わってきた。

 

 私はマスコミと言われる仕事に就いている。マスコミの一部である自分のことが悔しくなった。マスコミの一部であることに虚しさを覚えた。

 

「そんな自分に何ができるんだ?」と自問自答した結果――。自分にできることは、マスコミの一部であり続けることなのかもしれない、と暫定的な答えを出し、今に至っている。

 

 この答えにたどり着いてから、自分のすべきことが少しずつクリアーになってきている。そして“立ち止まって考えることの重要性に気が付いた自分”がいる。さらには、時としてユーモアも大事なのだ、とも彼は教えてくれた。日中国交正常化50周年記念慶典で見せたターンに、それを感じた。

 

 羽生結弦は、他者に考えるきっかけを与えてくれる人なのだ。観る者に語り掛けるようなアイスストーリーの開演が、待ち遠しい。

 

((((文/大木雄貴))))

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