羽生結弦演じるNovaが氷上で魅せた時間の葛藤~ICESTORY 3rd Echoes_of_Life~

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 2024年~25年「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR」埼玉公演がプロフィギュアスケーター羽生結弦の誕生日(30歳)である12月7日から、さいたまスーパーアリーナ(さいたま市内)でスタートした。2部構成の公演で、羽生はメインストーリーで12演目、アンコールで代名詞「SEIMEI」など3演目を披露。その中で、ゲームがもととなりアニメや映画まで派生した「STEINS;GATE」シリーズ、通称「シュタゲ」で使用された曲「GATE OF STEINER-Aesthetics on Ice」を演じた。

 

 羽生結弦は「ICE STORY 3rd Echoes of Life」の中で遺伝子を操作され、能力に専門性を持つように調整された「造られしもの VGH-257 Nova」を演じている。Novaは、世界を破滅させかねない恐ろしい兵器として誕生した。

 

 彼は「命とは」「わたしとは」「役割とは」といった問いから派生させて、「過去」「いま」「未来」という時間の概念に疑問を持つ。

 

 羽生と演出家のMIKIKOはインターミッションから3つ目に「GATE OF STEINER-Aesthetics on Ice」を持ってくる構成を練り、披露した。「STEINS;GATE」シリーズの詳細説明はここでは避けるが、平たく言えば過去に戻り友人と好きな人を救おうとするゲームおよびアニメだ。いわゆる、タイムリープ物と呼ばれる作品である。こういった背景を持つ曲を羽生とMIKIKOは選んだ。

 

 白ではないが、羽生は白衣を想起させる丈の長さの衣装で氷上に立った。短音とそれにぶら下がる装飾音によるピアノ調の旋律が流れる。羽生は上から垂れてくる糸を1つ、2つと右手で表現するようなしぐさを見せた。私には、それが世界線は複数あってほしいと示しているように映った。手短な説明で大変恐縮だが、世界線とは「この世の中の時間軸」とでも言えばよいだろうか。ここでNovaは、遺伝子を操作されることなく争いもない、「いま」とは違う時間の流れの世界を望んだのではないだろうか。

 

 さいたまスーパーアリーナの氷上にはアナログ時計が映し出された。時計の針は刻一刻と進んでいく。Nova(羽生)はそれに逆らうがごとく、反時計回りにスケーティングを披露した。時間の経過に逆らいたい、自分の役割は他者に決められたくない、という苦しみが見事に表現されているように感じた。

 

 遺伝子を操作され、生まれる前から決めつけられた“残酷な役割”しかないのか。過去を変えようといくら抗っても、“Novaとして生まれてきてしまう”結果は変えられないのか。運命論に導かれるように、過程を変えても同じ結果に収束してしまうのか。それとも、みんなが平和に暮らせるユートピアとも言える世界線はあるのか、ないのか。羽生演じるNovaが苦悩する姿を、氷上に見た。

 

 悩み苦しんだ末、ある意味で達観、諦観の域に達してから、Echoes of Lifeという物語は加速するように思えた。

 

((((文/大木雄貴))))

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