『ROUND AFTER ROUND.3』“悪ガキ”たちが回す新しいサイクル ~D.LEAGUE~
日本発のプロダンスリーグ『D.LEAGUE』、初代王者のavex ROYALBRATS(エイベックス ロイヤルブラッツ)。11月20日に行われたROUND.3で、24-25シーズンの初白星を手にした。ROUND.4終了時点で1勝2敗1分けでチャンピオンシップポイントは5点。順位は10位だが首位のdip BATTLES(ディップ バトルズ)とは5点差。今後のROUNDで巻き返しを図る。

(写真:かばお<左>は大学生でダンスを始めた当初、Yuta Nakamura<右>の指導を受けた)
チーム名のROYALBRATSは<“BRATS”は、聞かん坊の悪ガキ、“ROYAL”は、王家の血という意味で、「血統書付きの悪ガキ」、「ハイスキルな新世代」>という意味からきている。チームカラーとも言える、この“悪ガキ”感は少し毛色が変わったとはいえディレクター、メンバーを一新した21-22シーズン以降も引き継がれている。
ディレクター(兼ダンサー)就任4季目のYuta Nakamuraは、今季から新たに試みていることがある。それは作品のディレクションをメンバー中心に回していることだ。その理由をYuta Nakamuraはこう説明する。
「D.LEAGUE以外での活躍が目まぐるしかった。その中で“こういう作品をつくれるんだ”と見られ、任せられると思った。そういうメンバーがもっと増えていけば、もっともっといろいろな作品がつくれる」
Yuta Nakamuraディレクター体制の1年目からチームに所属する、かばおは「4年目でやっとできるようになってきた。Yutaさんが培ってきたもの、チームでレベルアップしてきた。Yutaさん以外の人が作品をつくれるようになったことで、チームが強くなってきていると感じました」と、その手応えを口にする。
今季初勝利となったROUND.3は、かばおとMATSURIが中心となって作品をつくった。「楽曲などは準備していましたが、ROUND.1とRound.2を見た上で、ROUND.3は2人の作品でいこうと決めました」とYuta Nakamura。対戦相手はLIFULL ALT-RHYTHM(ライフルアルトリズム)。かばおは「世界観が強いチームというイメージがあるので、こっちは僕らの強みであるエンタメ性をゴリ押しした。かつクオリティーの高いものを持っていったことで勝負できたと思っています」と振り返る。
作品のテーマは「For You」。郵便配達員に扮した8人がハッピーを届けるというストーリーだ。冒頭で7人が新聞を持って踊ると、自転車に乗ったJUMPEIが登場。椅子やテーブルを小道具に使うことは多いが、自転車はリーグ史上初ではないだろうか。「MATSURIと話していて案に出てきて、Yutaさんに相談したら『いいじゃん! おもろいじゃん』と言ってくれたんです」とかばお。製作段階ではUber Eatsの配達員という設定もあったが、「人に見やすく、伝わりやすくするためにそぎ落としていった」、その上で自転車は生き残った。
小道具はアクセントとしてしっかり存在感を出しつつも、ダンスや作品全体の邪魔をしてはいけない。そこには緻密な狙いが隠されている。JUMPEIのエースパフォーマンスに繋がる直前、7人が彼の一歩一歩に合わせ紙を音楽に合わせテンポ良く滑り込ませるシーンがある。そこでバランスを崩さず、軽やかに進むJUMPEIのバランス感覚も見事だが、かばおは「瞬時にカバンから紙を出す時間がめっちゃタイト。小道具は使う時、リスクもある。あそこは動画で、もう一度観てもらいたい」と注目ポイントに挙げる。
JUMPEIは「ただの出オチだとすごく冷める。それが原因で負ける可能性もある。なぜ自転車という理由付けで、作品とのバランスを研究したことが大変でした」と自転車を採用することの難しさを語っていた。Yuta Nakamuraが「かばおのアホさが光った。例えば僕が自転車を漕いでいたら、観ている人は冷めてしまう。だけど彼だと“あり”になる。通常では“なし”となることを正解に変えられるカリスマ性がある」と分析したように、かばおのキャラクターとマッチしたことも大きいだろう。かばおは表現力豊かで、顔面すら“踊っている”ように映る。そのことを伝えると「ありがとうございます。“ガンサー”です」と返ってきた。
ROUND.3は6項目総取りのSWEEP勝ち。かばおは、今季初白星に“貢献”した自転車を撫でて喜んだ。エースパフォーマンスを任されたJUMPEIはMVD(Most Valuable Dancer)を受賞。「最高のものを用意してくれた。あとは踊るだけで良かった」とディレクションを担当した2人(かばおとMATSURI)に感謝した。
2週間後に行われたROUND.4ではKADOWAKA DREAMS(カドカワ ドリームズ)に敗れたものの、収穫はあったという。Yuta Nakamuraが久々のスタメン出場。Yuta Nakamuraは「久々の出場してみて、出ているみんなへのリスペクトが高まった。自分の中で作品をつくる上でのプラスアルファにもなりました。SWEEP負けは悔しい結果ですが、今回の出場は、オレの中ですごく大きいと思っています」と振り返った。かばおも「最高の作品が世に出た」と胸を張る。「やって良かった」。ディレクションを担当したYuta Nakamuraによれば、この日のお見送りでROYALBRATSのファン以外から「めっちゃ良かった」との声をもらったという。
個人的にはROYALBRATSは、観ている者をハッピーな空気感に包む作品が多く、かつダンサーたちが楽しそうに踊っている印象がある。「楽しんでいるように見せるのもテクニックなんです。ただ楽しい時は、オレたちも本当に楽しんでいる。作品のハッピーさや楽しんでいるところはチームの武器。それを生かせるところは生かしていきたいと思っています」とYuta Nakamura。勝つことだけが全てではない。自分たちが楽しむことも表現のひとつだ。
「“これをこうやったら楽しんじゃない?”と話をしている時間も楽しい。観てくれた人たちから『ここが好き』と言ってもらえることにすごくやり甲斐を感じます。そこは絶対譲れないところ」
今後に向け、Yuta Nakamuraは「面白いことにトライしていきたい」と言い、こう続ける。
「安定したチームにはなりたくない。もちろん、“ここはこういうふうに勝ちたい”という作品ごとの狙いはありますが、そればかりではありたくない。チャレンジし続けたい。2分15秒の中でどれだけやれるかというのが醍醐味で、オレはそれを楽しみたいと思っています。チャレンジをどんどんしていって、なおかつ勝ちたい。その二軸を持って戦うのが理想です」
それを受け、かばおは「僕もチャレンジ、新しいことをするのが好きです」と頷く。その一方で挑戦すること、楽しむことだけに重きを置いていないという。
「ただ自己満足で終わるのは嫌い。観ている人に楽しんでもらったり、感動していただくようにすることは絶対に考えていなきゃいけない。それを踏まえた上で、自分たちの好きなものをやり、勝つことが一番理想のかたち。そこは忘れず、やりたいことをやっていきます」
悪戯っぽく笑う“悪ガキ”たちの反撃は、これからだ。
(文・写真/杉浦泰介)