第136回 地域活性化は“ニイガタの奇跡”に学べ<後編>

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二宮: 地域に密着することで成功したJリーグに、プロ野球の各球団も大きな影響を受けていますね。東北楽天ゴールデンイーグルスや、本拠地を移した北海道日本ハムファイターズなどは、まさにそうでしょう。
池田: 福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)がJリーグの手法を取り入れて、地元・福岡に密着した球団経営を始めたことが、そのハシリですね。

二宮: ええ。そのように地域密着型でないと、お客さんはチームが勝ったらくるけど、負けたらこなくなる(笑)。もちろん、そのシーズンの成績によって動員数の増減はあるでしょうが、多少の差はあってもほぼ一定しているというあり方がJリーグの目指すところですよね。たとえ負けがこんでいる時期にも、「それでもやっぱり俺がまちのクラブ」とあたたかく応援してくれるファンがいる。まさに「ホームタウン」です。
池田: そうしたあたたかさは、私もいつも身にしみて感じています。うちのスタジアムでは、負けてもブーイングはほとんどありません。むしろ拍手がわき上がります。
 自分の子や孫が試合に出ていたら、たとえ負けても罵声など浴びせず、「よく頑張ったなあ」と拍手しますよね。それと同じ感覚で応援してくださる方が多いのです。

二宮: 先ほど池田さんが言われたように、新潟はもともとサッカー人口も少なく、レベルも低かった。また、いまスタジアムにきてくれるおじいちゃん・おばあちゃんの中には、サッカーのことを知らない人もたくさんいたと思うのです。それが、いまや新潟は「サッカー先進地域」になった。これはまさに“アルビレックス効果”ですね。
池田: そうですね。たとえばアルビレックスができて15年が経ったいま、ジュニアユースやユースで、サッカーの日本代表が新潟から出ています。アルビレックスができるまで日本代表が新潟から出たことはなかったので、これ自体画期的なことです。
 また、サッカーのレディースチームもすごく増えました。奥様方がサッカー好きになれば、その子さんもおのずとサッカー好きになるわけで、サッカー人口の増加の相乗効果がそこでも起きています。

二宮: 池田さんたちが15年前に蒔いた種が、いまようやく花を咲かせ始めたという感じですね。
池田: ええ。言いかえれば、いまジュニアユースなどで日本代表になっている新潟の子たちが大人になったとき、アルビレックスが彼らの受け皿になれるということです。さらには、アルビレックスから世界に飛び出すケース出てくるでしょう。つまり、新潟から直接世界に行けるというシステムが作れた。このことはほんとうにうれしいですね。というのも、これまではサッカーに限らず、スポーツの優秀な選手は中学までは新潟で活躍しても、高校からは首都圏や他県のスポーツ名門校に行っていたのですから……。

二宮: 僕は、オリンピックの取材に行って、はたと気づいたことがありました。それは、「日本のオリンピック選手の多くは地方出身者でも、たいてい東京の大学や企業に所属している」ということです。ほかの国はそうではありません。たとえばアメリカなら、「私はカリフォルニアからきた」「オレはフロリダからきた」というふうに、みんなバラバラなんです。首都圏に一極集中しているのは、日本くらいなんじゃないかな。
池田: それは象徴的ですね。いま、時代が大きく変化し、日本のあるべき姿が地方分権から地方主権へと移りつつある。でも、その中にあってスポーツ界というのはある面ですごく遅れていて、いまだ中央集権的だったわけです。発足当時から地域に根差した活動をしてきたJリーグが、そういう状況を変える突破口を開いた面が大きいと思います。その中の一つの試行錯誤として、新潟にチャンスをいただいたのだと私は思っています。

二宮: 地方から出世魚のように東京の有力大学や有力企業に入り、日本代表を目指すというありようは、もう古いのではないかと私は思います。むしろ、スポーツ選手の地産地消といいますか、各地方の地元チームが地元選手の受け皿になり、地元のみんなで応援していく……そういうあり方が、これから主流になっていくと思いますし、また、そうしなければならない。
池田: スポーツ選手の地産地消というのは、選手たちにとってもいいことだと思います。というのも、アルビレックスを15年やってきてしみじみ思うのですが、スポーツチームというものは、地域のサポーターの応援によって育まれ、強くなる面があるからです。そのことを私がいちばん強烈に感じたのは、
ホームスタジアムの「ビッグスワン」ができたときです。
 ビッグスワンの収容人数は4万2300人で、それまで使っていたスタジアムのおよそ10倍です。そして、こけら落としのときには、じつに3万2000人もの観客が集まってくれました。それまでのスタジアムでの平均動員数の10倍です。
 3000人の観客の前でやっていたときには、選手たちは試合の終盤になると疲れ切っていて、もうあきらめて走らずに歩いてプレーしている選手がほとんどでした。ところが、真新しいスタジアムで4万人もの大観衆を目にしたとたん、選手たちは人が変わったように元気になって、最後まで走りきるようになりました。そして、そのはつらつとしたプレーにサポーターも感動して、応援にも熱が入ります。するとますます選手たちはがんばる……そんな相乗効果が起きたのです。うちがホームの試合に強いのは、そのためでしょう。
二宮: アウェイで勝つ必要がないとは言いませんが、ホームで勝つ方が大事なんです。ホームで勝つと、地元のお客さんが喜んでくれますからね。

二宮: アルビレックス新潟の成功が教えてくれることとして、一つのプロスポーツチームを育て上げていく過程で、地域社会がたいへん活性化するということがありますね。
池田: そうですね。アマチュアのチームとは、活性化の度合いがまったく違います。それは、子供たちが選手に憧れる度合い、試合がもたらす興奮とエンタテイメント性の度合いの違いだと思います。それが証拠に、新潟ではサッカー日本代表の試合より、アルビレックスの試合のほうがはるかに観客動員数が多いのです。

二宮: Jリーグの場合、試合に勝つことはもちろん大事だし、優勝するに越したことはないのですが「負けたらゼロだ」という“オール・オア・ナッシング”ではないんですね。「地域に貢献する」ということが大前提で、その結果として、あるいはごほうびとして優勝などがある。そこを履き違えて、Jリーグの試合は、日本代表のオーディション的な考えをする選手や関係者が最近出ていますが、それはJリーグの理念から外れていますよ。
池田: おっしゃるとおりです。また、その「地域への貢献」ということについては、目に見えない部分でさまざまな形でしているという自負があります。たとえば、地域コミュニティにおいて、子どもたちの人間力育成という部分で、スポーツチームは重要な役割を担っているし、また担うべきだと思っています。

二宮: スポーツの社会的効果は、たくさん挙げられますね。健康増進になって医療費抑制につながるとか、老若男女がスポーツチームを通じて絆を深めることで地域共同体の崩壊が防げ、同時に犯罪予防にも結びつくとか。もちろん観光資源として見た場合は、経済効果も大きい。そうした多角的な効果のすべてがないまぜになって、地域活性化や地域のアイデンティティーの確立につながっていく。つまり、この国が地方主権を進めるにあたり、地域密着型のスポーツクラブはなくてはならないものだと思うんです。「スポーツで幸せな国へ」というJリーグの理念は少しも色褪せてはいない。
池田: あともう一つ感じるのは、いまや全国38チームにまで増えたJリーグによって、地域間の連携がすごく進んだということです。昔は東京を経由しての連携だったものが、いまでは地域同士の直の連携という感じになってきています。そもそもJリーグの試合自体、一種の地域間連携ですしね。
 日本がここまで発展したのも、明治以来、各地域が個性的で有能な人材を輩出したからこそだと思うんです。しかし、中央集権化が進んで同質のエリートばかりが国を動かす時代が長くつづいて、国力が下がってきたわけです。そういうことを考えると、Jリーグが先鞭をつけた地方の再生が、日本再生にも直結していく気がします。

<この原稿は2010年5月号『潮』に掲載されたものを再構成したものです>
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