開幕7試合を終えて5勝1敗1分。今シーズンはいい滑り出しができました。一昨年、独立リーグ日本一に輝いた時のように、投打のバランスが良い状態が続いています。このスタートダッシュができた要因として、2つの勝利があげられると思います。
 まず、ひとつは何といっても開幕戦(4月2日、対三重)の勝利です。エースの左腕・吉川岳が完封こそならなかったものの1失点完投勝ち。相手のエースの洪成溶との投げ合いを制しました。この日の吉川は何よりストレートが走っていました。MAXで146、7キロ、平均でも140キロ以上は出ていたのではないでしょうか。試合後、相手の三重・長冨浩史監督も「真っすぐに力が出てきたね」と言っていました。

 彼はもともと変化球でストライクがとれるタイプだっただけに、NPB行きへの課題はストレートにありました。左腕というアドバンテージはあるにせよ、球速がある程度ないとスカウトは獲得しにくいものです。今季のテーマを開幕初戦で実践できたことは本人にとっても大きいでしょう。その後の吉川は16日の徳島戦で5回6失点KOするなど結果は出ていませんが、立ち上がりさえうまく乗り切れば、一昨年の14勝を上回る成績が期待できるのではないでしょうか。

 そして、もうひとつは10日の香川戦です。この日の香川の先発は前川勝彦。昨シーズンはこの元NPB左腕相手にひとつも勝つことができませんでした。リーグチャンピオンシップでも初戦で対戦して打ち崩すことができず、シリーズの流れを相手に渡してしまいました。彼はテンポよく投げてカウントを整え、変化球で打ちとるピッチングが基本です。つまり、追い込まれる前にカウントを取りにきたボールを叩く。これが攻略の第一歩になります。

 もちろん昨シーズンもこのポイントは徹底していたのですが、選手たちはなかなか結果に結び付けることができませんでした。狙ったボールを空振りしたり、打ち損じたり、と確実性に欠けていたのです。しかし、10日の試合では、各バッターが甘く入ったボールをとらえ、前川から4点を奪いました。

 天敵とも言える相手を最初の対戦で攻略できたことは、チームに勢いをもたらせます。特に香川は昨年のチャンピオンチーム。絶対に叩かなくては優勝はできません。しかも前日は、2点リードの試合を追いつかれて引き分けに持ち込まれていただけに、この1勝は1勝以上の価値があると思っています。

 10日の試合に象徴されるように、今シーズンは昨シーズンより打力が向上しています。チーム本塁打数も7試合でリーグ最多の4本。昨シーズンは貧打で好投の投手陣を見殺しにしてきましたが、今は1試合5〜6点は計算できる雰囲気になっています。

 投手陣は吉川に加え、3連勝中の山慎一郎山中智貴と先発は3枚揃っていますし、ヒジのクリーニング手術で出遅れていた野原慎二郎も復帰しました。15日の今季初登板では、ぶっつけ本番だったため、制球を乱しましたが、何試合か投げれば本来のピッチングを取り戻すでしょう。次は今週末の福岡ソフトバンクとの定期交流戦に登板させ、ゴールデンウィーク中の連戦では先発を任せる予定です。5年目の山隈茂喜、19歳左腕の濱田兼信と先発のできるメンバーは他にもいます。他チームと比べて、この点はアドバンテージでしょう。

 チーム状態が良いだけに怖いのはケガ人です。実際、野手にはチラホラ故障者が出ています。好調なスタートを切れたとはいえ、今シーズンのアイランドリーグは、各チームの戦力が整っており、実力は接近しています。ちょっとでも歯車が狂えば負けが込む可能性は少なくありません。 
 
 ゴールデンウィークに向けて試合が続くだけに、チームの好調が持続できるよう、うまく調整やケアをしていきたいものです。次のホームゲームは29日から三重を迎えての3連戦。たくさんの皆さんのお越しをお待ちしています。
 

定岡智秋 (さだおか・ちあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1953年6月17日、鹿児島県出身。定岡三兄弟(次男・正二=元巨人、三男・徹久=元広島)の長男として、鹿児島実業から72年、ドラフト3位で南海(現ソフトバンク)に入団。強肩の遊撃手として河埜敬幸(元長崎監督)と二遊間コンビを形成した。オールスターにも3回出場し、87年限りで現役を引退。その後、ホークス一筋でスカウトや守備走塁コーチ、二軍監督などを歴任。小久保裕紀、松中信彦、川崎宗則などを指導し、現在の強いソフトバンクの礎づくりに貢献した。息子の卓摩は千葉ロッテの内野手。08年より高知の監督に就任。現役時代の通算成績は1216試合、打率.232、88本塁打、370打点。
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