今季で7年目を迎えるプロ野球の交流戦がスタートした。この交流戦、スタート当初から“パ高セ低”の傾向が強かったが、昨季は優勝したオリックスから上位6チームをすべてパ・リーグの球団が占めた。全体の勝敗もパが81勝59敗4分と大きく勝ち越した。過去6年間、交流戦はすべてパの球団が制している。

 青木が交流戦に強い理由

 かつてプロ野球は人気のセ、実力のパと言われていた。交流戦がない時代、両リーグの実力をはかる場はオールスターゲームだった。毎試合、ゴールデンタイムで試合が中継される巨人の選手たちとは異なり、パの選手たちは夏の球宴をテレビに映る最大のチャンスととらえ、目の色を変えて試合に臨んだものだ。対戦成績でもパがセを圧倒していた。

 それがFA制やドラフトでの逆指名が導入された1990年代になると、セにスター選手が集中し、状況が変わってくる。97年から00年にかけてオールスターゲームでもセが引き分けを挟んで8連勝。パの存在価値が問われ始めた頃に勃発したのが、04年の球界再編騒動だった。この時は選手会のストライキや世論の反対もあり、1リーグ制の動きは阻止された。そして共存共栄システムのひとつとして導入されたのが、メジャーリーグで97年にスタートしたインターリーグ、すなわち交流戦だった。

 昔とは異なり、今はスカパー!に加入すれば、どの球団の試合もテレビで観られる。ただ、パの選手たちの意識には、“精神的遺伝子”がまだ残っているようだ。日本シリーズMVPに2度輝いているロッテの今江敏晃はこう語る。
「交流戦の巨人戦や日本シリーズは地上波でも放送されて注目される。もう、これはチャンスやと思ってワクワクしますね」
 交流戦でパが強い理由は、好投手が多いといった戦力面はもちろん、こういった精神的な部分も大きかったのかもしれない。

 今季は北海道日本ハムに斎藤佑樹が入団し、開幕前からメディアは、その一挙手一投足を追いかけた。3月の東日本大震災により、被災地の球団となった東北楽天の勝敗にも注目が集まっている。セの各球団は例年に増して影が薄い。これでは“人気もパ、実力もパ”だ。「セはプロ野球の2部リーグ」と揶揄されないためにも、この交流戦でパを追いやるくらいの存在感を示す必要があるだろう。

 打倒パの一番手となりそうなのが、現在、セの首位を走る東京ヤクルトだ。先発陣は、石川雅規、館山昌平の2枚看板に加え、若き右腕の由規に安定感が出てきた。打線でも交流戦の通算打率が.351と12球団トップの青木宣親が牽引する。「結果だけ見ると確かに打っているような気はしますね。(対戦が少ない投手に対して)やりづらさは確かにありますけど、対戦する時に他の誰かのピッチャーのタイプに当てはめているのがいいのかもしれない」と本人は語るが、そこにはもちろん技術的な裏付けがある。

 彼のバッティングの特徴はスイングにおいてフラット(水平)な状態になる時間が一般のバッターに比べて長い点にある。青木式のスイングは、バットの軌道が逆台形のかたちになり、底辺、いわゆるスイングがフラットになる部分が長い。必然的にバットがボールをとらえる確率も高くなる。よく指導者が教えるダウンスイングは極端に言えばV字の軌道を描く。バットをボールに向かって振り下ろし、強烈なインパクトを与えることで打球に力強さを生む。前者がボールを「点」でとらえるのに対し、後者は「線」でとらえるということもできるだろう。最近の投手はカットボールやツーシームなどバッターの手許で変化するボールを多投する。交流戦のような慣れない投手と対峙するにあたって、なおさらこの打法が適しているのは言うまでもない。

 バリントン、快投の理由

 セがパを攻略するにあたって、ひとつのカギを握るのが、今季の新戦力だろう。まずは外国人だ。今季の助っ人で、最大の掘り出し物はヤクルトのウラディミール・バレンティンだ。打率.385、13本塁打はリーグダントツトップ。変化球に対しても軸がぶれず、バットを折りながらスタンドまで運ぶパワーがあるのだから、投手はたまったものではない。

 このバレンティン、キャンプ、オープン戦での評価は全く芳しくなかった。外の変化球を簡単に空振りし、打球もまともに飛ばなかった。キャンプ中に臨時打撃コーチを務めた元監督の若松勉が「全然ダメ。打撃コーチもお手上げでしたよ」と苦笑いしていたほどだ。ただし、そこは現役時代に日本人最高打率を残し、指導者としても青木や岩村明憲(東北楽天)、アレックス・ラミレス(巨人)などを育てた若松である。なかなか火を吹かない大砲にひとつのアドバイスを試みた。

「日本のピッチャーはメジャーリーグみたいに力で押してくるんじゃなく、ズル賢いから弱点を突いてくるピッチングをしてくる。インサイドのシュート気味のボールが来たら、必ずアウトサイドのスライダー、カーブがボール気味で入ってくるよ。もし、そういうアウトコースのボールを狙うんだったら、右中間方向に狙っていかないと、日本では長くプレーできないよ」

 この一言が効いたのか、バレンティンはキャンプ時と比べると見違えるような打撃をみせている。外の変化球にも、しっかりと体を残し、逆方向に弾き返す。研究熱心で各投手の特徴や配球も日々、調べているという。交流戦で当たるパの各投手には怖い存在になりそうだ。

 投手では広島のブライアン・バリントンが結果を残している。ここまでリーグトップタイの4勝(1敗)をあげ、防御率2.19。好調なチームを支える大きな柱になっている。彼の持ち味は低めに集める丁寧なピッチングだ。
「ヒザよりも上にボールを投げなければハイスクールボーイでも(メジャーリーガーたちを)抑えられるんだよ」
 ドジャースの投手コーチだったデーブ・ウォレスが私にそう語ったことを思い出す。「ハイスクールボーイ」というのは極端なたとえにしても、ピッチングの真理を突いていた。海を渡った野茂英雄へのアドバイスも「キープ・ダウン」(低めを突け!)。それだけだった。

 彼の快投を後押ししているのは今季から導入された統一球ではないか。以前もこのコーナーで書いたように、低反発の統一球は表面が滑りやすく、米国製のボールに近づいたと言われる。そのあたりもボールをしっかりコントロールできる背景にあるのかもしれない。交流戦でもキープダウンを徹底できれば、強打者の多いパの各球団も攻略に苦労するはずだ。

 セに移籍した元パの選手たちも重要な役割を担っている。巨人の高橋信二、横浜の森本稀哲(いずれも元日本ハム)、山本省吾(元オリックス)、渡辺直人(元楽天)……。彼らはパの各選手の特徴を肌身で知っているからだ。VTRやPCを駆使した分析が発達したとはいえ、こういった生のデータは貴重である。元パの選手をグラウンド内のみならず、いかに情報戦でも活用できるか。利用できるものは利用しなければ、“パ高セ低”の図式は簡単には覆せない。

 内川、両リーグ首位打者への道

 セばかり書いたので、パについても一言。パで注目したいのは、逆にセからやってきた内川聖一(福岡ソフトバンク)である。FAに移籍によるプレッシャーを逆にエネルギーに変え、交流戦前までの打率は.402。気は早いが、内川が首位打者となれば、江藤慎一(故人)以来となる両リーグでの戴冠。これは江藤に次ぐ史上2人目の快挙である。

 セ・パの野球の違いについて、内川は次のように感じている。
「困ったら真っすぐで勝負するピッチャーはパ・リーグのほうが多いかなと思います。純粋に1対1で勝負している感覚が強い。セ・リーグはかわしながら抑えていく傾向がありますね」
 セ・パ、どちらの野球がより内川の打撃スタイルに合っているかと言われれば、それはパだろう。

 横浜時代、彼に打撃開眼のきっかけを与えた杉村繁巡回打撃コーチはこう語る。
「外の変化球や左右の揺さぶりが多いと、どうしてもバッティングを崩される。でもパ・リーグは力勝負で来るから、彼にとってはおいしいだろうね」
 内川は“来た球を打つ”タイプのバッターである。バットコントールも巧みで、広角に打てる。右と左の違いはあれ、シアトル・マリナーズのイチローにタイプは近い。だからこそ慣れないパの投手に対しても、いきなり好成績をあげられるのだ。

 内川にとって交流戦はひとつのヤマ場となる。横浜時代も、首位打者を獲得した08年から3年連続3割以上をマークしているだけに、セ相手でも一定の成績は残すだろう。ただし、セの各投手も内川の攻略法は頭に入っているはずだ。セの包囲網をもろともせず、高打率をキープできるかどうかが、両リーグ首位打者への条件となる。また本人は首位打者のみならず、日本人右打者初のシーズン200安打も狙っている。ゴールデンウィーク中に右太もも裏を痛め、しばらくスタメン出場を控えていたため、現状は198本ペース。ヒット数にこだわる背番号24にとってはモチベーションの上がる状況である。

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