甚大な被害をもたらした東日本大震災の影響で開幕が延期となっていたNPBのペナントレースですが、今月12日、いよいよスタートしました。25日現在、パ・リーグは開幕から2試合は白星がなかった福岡ソフトバンクが、3カード連続で勝ち越しを決め、首位に躍り出ました。一方、セ・リーグは昨季のBクラス組の東京ヤクルトと広島が首位争いをし、逆に昨季リーグ覇者の中日が最下位と、開幕前の大方の予想とは違う展開となっています。果たして今後はどんな戦いが繰り広げられるのか、今季も非常に楽しみです。
 さて、今シーズンからNPBでは公式戦の使用球が12球団で統一されました。ミズノ社の低反発球で、いわゆる“飛ばない”ボールとなったのです。私もキャンプで実際に触ってみましたが、噂通り、やはり結構滑るなという感じがしました。気になるピッチャーへの影響ですが、インパクトの際、指先にしっかりと力を入れないとボールが高めに浮いてしまうという印象をもちました。また、縫い目が1.1ミリから0.9ミリと低くなりましたから、特に手が小さいピッチャーは指先に意識をもって投げきらないと、抜けてしまう可能性がある、キャンプではそんなふうに思っていました。

 私自身、現役時代に米国に渡った際、日本とは異なるメジャー球に最初はとまどいました。私もそれほど手が大きい方ではありませんから、浮かないようにと指先に意識を強くもったものです。その時のボールよりも、今回の統一球は幾分、日本人選手にはなじみやすいボールではあるとは思いましたが、やはりキャンプの序盤ではどのピッチャーも気になっていたようです。しかし、キャンプが進むにつれて、ほとんどのピッチャーが順応しており、普段通りのピッチングが行なわれていました。

 実際、ペナントレースが始まってみると、統一球の影響を受けているのかな、と思われたのが開幕戦での前田健太投手(広島)でした。もともと低めにコントロールできるピッチャーですから、多少調子が悪くても、それほど制球が乱れることはありませんでした。ところが、開幕戦では後半になるにつれて少しずつ高めに浮き始めたところを、阪神打線に狙われてしまいました。このように、今後は試合の終盤や、夏場以降の後半戦といった、ピッチャーが疲れて指先の感覚が落ちた時に、抑えが利かないということがあるかもしれません。

 一方、バッターへの影響ですが、低反発ということで、これまでのものと比べると、打球が飛ばなくなると言われていました。しかし、ピッチャーと比べても各バッターの対応がスムーズなようで、それほど影響はないように思えます。実際の試合でも、意外にも飛んでいるという印象をもっている人は少なくないのではないでしょうか。とはいえ、影響が全くないわけではありません。芯をしっかりととらえた打球は、従来と同様に飛びます。しかし、例えばタイミングが外されて拾ったような打球でも昨シーズンまではホームランになっていましたが、今シーズンは決してそういうことはないでしょう。しっかりと芯でとらえ、振り切らないと、ホームランにはならない。野球本来の姿に戻ったということが言えると思います。

 ただ、どのバッターも振り切ることに意識を置いているでしょうから、打球の速さはこれまでよりも速くなる可能性はあるかもしれませんね。ですから、投手力はもちろんですが、守備が堅いチームが上位に上がってくることが予想されます。今シーズンのペナントレースの展開に、統一球の影響がどんなふうに及ぶのか、見どころのひとつとして注目していきたいと思います。

 
佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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