『ROUND AFTER ROUND.4』“どん底”からのRAISE UP ~D.LEAGUE~
日本発のプロダンスリーグ『D.LEAGUE』の24-25シーズンで最も遅く初勝利を挙げたのがFULLCAST RAISERZ(フルキャストレイザーズ)だ。開幕3連敗自体、初年度のレギュラーシーズンウィナーであり、チャンピオンシップ(CS)常連のRAISERZにとって屈辱以外何物でもないだろう。
初年度からのメンバーで、今季ディレクター兼ダンサー2季目を迎えたKTRに聞くと、3連敗中、チームの雰囲気は悪くなかったという。
「今季はジャッジシステムが変更になり、迷っていた部分もありました。どうやったら点数が入るんだろう、勝ちづらいという感覚はありました。新ルールに寄せてしまい過ぎると作品が面白くなくなってしまう。でもRAISERZの色は消したくない。今まで通り、クランプを、自分たちの魅せたいことをD.LEAGUEで打ち出していこう。負けてはいたものの、自分たちはいい作品をつくれていたという手応えもありました。チームの雰囲気もそう悪くなく、みんな前を見れていたと思います」
12月5日にROUND.4で披露した「Kill The Stage」。直訳すれば「ステージを殺せ」だが、意味合い的には「ステージをぶっ壊せ」の方が近いだろうか。それだけの覚悟とエナジーをひとつひとつの振りに込めた。実はこのラウンド、KTRによれば、「本当は違う作品を用意していたんです」という。ではなぜこの作品を選んだのか。
「ちょうど世界大会(KING OF BUCK)が日本で開催したタイミングだったんです。RAISERZのメンバーが運営を担当しており、クランプの世界大会の熱量のまま、クランプの作品でいくのがベストなんじゃないかなと思い、切り替えました」
KTRにとって、ROUND.4が今季の初陣だった。シーズン前、右手甲を骨折--。医師には「しっかり踊れるようになるには3カ月」と診断されたという。
「でかいケガをしたことが幼稚園の時に乳母車から落ちて骨折して以来。それからはしていないですね」
元々、タフな身体の持ち主だ。2カ月後には踊れるようにはなっていたが、復帰には慎重になった。
「シンクロパフォーマンスなど指の先まで揃えないシステムがあった。ケガが治ったばかりの生半可の状態でD.LEAGUEに出られないと思ったんです。本当はROUND.3の復帰という考えもありましたが、メンバーとも話し合ってROUND.4で復帰することにしました」
ROUND.4の「Kill The Stage」はKTRのソロでスタートした。1人スポットライトを浴びた彼は曲のボーカルに合わせてリップシンク。
「WE」
「COME」
「BACK!」
復帰戦ということもあり、「COME BACK」というフレーズはピタリとはまる。だがKTRの復帰であれば「I」でいいはずだ。では「WE」の意図とは?
「自分ひとりだったら“WE”じゃない、“COME BACK”だけでいいと思うんです。 “RAISERZが戻って来たぞ”という意味を込めて、“WE”にしました」
最後はKTRがジャケットを脱ぎ捨てて身体全体で振り絞るように踊り続ける。暗転した後も踊っており、暗闇の中にも、彼の燃え尽きない闘志が透けて見えた気がした。
「クランプには限界を超えてから、なおいくという美学がある。そこを見せたい作品でもあったんです。ソロで終わるのもRAISERZとしては新鮮。ルーティンで締めくくるのが、我々の王道ではありましたが、そこも崩したかったんです」
対戦したMedical Concierge I’moon(メディカル・コンシェルジュ アイムーン)は、昨季ROUND.13でSWEEP負けを喫していた。直後の囲み取材で、KTRはこう敗戦の弁を述べていた。
「I'moonさんの完成度、女性らしさ、魅力的なところは僕たちから見ていてもすごかった。僕らのパワーに対し、スパッとかわされたような感じがしました」
その7カ月後の再戦でもI'moonは神秘的な雰囲気を纏い、高いシンクロ率を誇るショーケースを見せてきた。それを5対1で打ち破ることができたのは、より純度の濃いストレートなクランプで真っ向勝負したからだろう。
ROUND.4に向け、チームとして合わせる時間は多く取れなかったという。先述したKING OF BUCKに加え、KTRらLDH発のパフォーマンス集団「RAG POUND(ラグパウンド)」のメンバーはダンス&ボーカルグループの『三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE』のツアーにも参加していたからだ。KTRはこう振り返った。
「練習時間も少なかったので、ROUNDの当日の朝来て、練習していたほどです。時間がなかった分、いい意味で、その作品で振り切れた。変に“揃えよう”と意識するのではなく、爆発力で攻められた。みんな相当気持ち良かったと思います」
これでトンネルからは抜け出せそうか。「ROUND.4で勝てたことはデカイです。ここをきっかけに連勝を続けていきたい」と言うKTR。改めて、今季の目標を聞いた。
「W優勝(レギュラーシーズンとCS)をしたいという目標は変わっていません。ただ勝つことだけが目的じゃない。RAISERZとしていろいろなところに飛び出していき、D.LEAGUEというものを広げていきたい。リーグ全体が盛り上がることで、観てくれる人も増えていくと考えています。外での生み出した熱をD.LEAGUEに持っていきたい。RAISERZも120%、RAG POUNDも120%でやっている。それも全部繋がると思っています」
クランプの魅力、可能性を発信するため、RAISERZは、何度でも拳を突き上げる。
(文・写真/杉浦泰介)