16日、今シーズンのBCリーグが開幕しました。現在、群馬ダイヤモンドペガサスは3試合を終えて、1勝2分けです。開幕前、天候や東日本大震災の影響でオープン戦ができなかったために、正直、今はまだ手探り状態です。今月いっぱいは実力を見極めるために、できるだけ選手には平等にチャンスを与えていこうと思っています。そして5月には戦力を整え、本格的にスタートしたいと考えています。
 なかでもキャッチャー3人は、いい意味で激しいレギュラー争いが繰り広げられています。それぞれがアピールできるものを身につけてきており、あとは不足している部分をいかに早く気付き、改善していくことができるか。これによって、レギュラーが決まってきます。特に今季は若手の聖哉(前橋育英高)と八木健史(工学院大学付属高−横浜ベイブルース)が、どう成長するかに注目しています。

 打撃のいい聖哉に対して、八木は守備力がついてきました。今季はスピード野球を展開するにあたり、“タイムコンシャス”を重要視しています。つまりタイムを意識するということです。キャッチャーの場合は例えば、送球ですね。ボールを持ってからベースにボールが届くまでのタイムが、ランナーの足を上回れるかです。そのタイムが1.9〜2秒前半の聖哉や川村修司(帝京高−REVENGE99)に対し、八木は1.8秒後半なのです。それこそ1.8秒台であれば、NPBでも合格点を与えることができます。また、川村と比べるとブロッキングは甘いものの、キャッチングは劣っていませんし、何といってもキャッチャーらしい考えをもち始めたことが大きいですね。

 というのは、一つ一つのプレーに対して自己分析ができるようになってきたのです。例えば、バッターへの攻略についてのミーティングで、どういう配球をするのかという質問に対して、これまでは答えに息詰まっていました。リードには、ピッチャー、バッター、そして状況のどれを優先にして考えるのか、その都度判断しなければいけません。そこには必ず根拠があるわけですが、それがあれば、ピッチャーとのコミュニケーションもうまくいきます。3人の中でそれができていたのが川村です。だからこそ、彼はピッチャーからの信頼が厚いのです。しかし、最近では八木にも根拠が出てくるようになってきました。

 配球や送球の面では、八木が聖哉を一歩リードしていますが、逆に打力や走力の面では聖哉が八木をリードしています。今後、彼らが自分たちの課題を見つけ、どう克服していくのか。彼らが成長すればするほど、ピッチャーにもいい影響が出てくるでしょうし、ひいてはチームの勝利につながるわけです。聖哉、八木、そして安定感のある川村の3人のうち、誰が正捕手の座をつかむことができるのか。ファンの皆さんにも、ぜひ注目してほしいと思います。

 さて、今季も開幕投手には度胸の良さを買って堤雅貴(高崎商業高)を起用しました。5回をわずか61球で2安打無失点に抑え、まずまずのピッチングだったと思います。しかし、NPBを目指すには人よりも秀でているものがなくてはいけないのですが、堤にはまだこれといったものがありません。入団1年目の一昨年は後半に結果を残したことから、2年目の昨季は先発ローテーションに入れました。しかし、球種が少ないことが露呈し、変化球の習得を試みましたが、まだ自信をもって三振を取れるまでには至っていません。今後は落ちる系のボールの習得、そして制球力に磨きをかけなければなりません。身長173センチと小柄な分、何か武器となるものがなければNPBへは上がれませんからね。

 しかし、そのことを本人がしっかりと自覚しているかというと、そうではないのです。勝っても負けても、どうしてよかったのか、何が悪かったのか、その根拠を見出そうという意識、つまり自己分析できていないからです。だからこそ、同じミスを繰り返す。これでは成長などありません。これは何も堤に限っての話ではありません。チーム全体が練習でも試合でも受動的で、こちらが質問したことに対して、自分なりの考えを言うことができないのです。その答えが合っているか、間違っているかは重要ではありません。相手のあることですから、やってみなければわかりませんし、もし間違っていても、ミスをしたとしても、「これでダメだったら、今度はこうしよう」と次につながります。重要なのは自己分析して、改善するためにトライすること。その積み重ねが進歩するためのプロセスとして不可欠なのです。

 そのことに気づき始めたのが前述した八木、そして清水貴之(世田谷学園高−日本大−全足利クラブ)です。清水は課題だった体の使い方を思い切って変え、体の回転と腕が一致し始めてきました。こうした自らトライする選手は、どんどんチャンスを与えていこうと思っています。今季はもちろん、優勝を目指してやっていきます。しかし、やはり選手の成長あっての勝利でなければ意味はありません。ですから、勝ち負け以上に選手たちが少しでも成長できるような指導を行なっていきたいと考えています。結果は後からついてくる。そう信じています。



秦真司(はた・しんじ)プロフィール>:群馬ダイヤモンドペガサス監督
1962年7月29日、徳島県出身。鳴門高校3年時には春夏連続で甲子園に出場。法政大学時代の84年、ロサンゼルスオリンピックに野球日本代表として出場し、公開競技ながら金メダル獲得に貢献した。翌年ドラフト2位でヤクルトに入団し、4年目には正捕手として122試合に出場した。その後、外野手に転向し、90年代のヤクルト黄金時代を築き上げる。99年に日本ハム、2000年に千葉ロッテへ移籍し、その年限りで現役を引退した。その後はロッテの打撃コーチや中日の捕手コーチ、解説者として活躍。08年に群馬ダイヤモンドペガサスの初代監督に就任した。
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