第212回 鬼木と中後、千葉県人同士の“ダブルボランチ”
早いもので、もう年末です。今年もサッカー天皇杯・決勝戦は年内に終えたために、違和感を覚えます。「正月の風物詩」がないと、少し調子が狂いますね(笑)。
鬼木が古巣復帰
僕の古巣、鹿島アントラーズは12月に入り、2017年から今季終了まで川崎フロンターレで指揮を執っていた鬼木達の監督就任を発表しました。鬼木は1993年、プロキャリアをアントラーズでスタートさせました。古巣への復帰となります。
クラブによって性質と言いますか“社風”みたいなものはそれぞれ。長くフロンターレにいたことで、考え方や方向性で少々戸惑うこともあるかもしれません。しかし、鬼木はアントラーズの考え方や「ジーコイズム」を忘れてはいないと思います。
フロンターレで指揮を執っていた時からこんなことを言っていたそうです。
「自分は現役時代、鹿島で育った。レギュラーにはなれませんでしたが、鹿島で勝つチームの空気を肌で感じてきた。鹿島の良さは徹底的に勝負にこだわるところ。そのあたりはフロンターレの選手たちにも伝えています」
スポーツは点を取らないと勝てません。GKがDFラインの裏をケアするためにかなり前に出るのが現代サッカーです。ロングキックで点が入ればそれにこしたことはない。ポゼッション志向の強いフロンターレにおいて、実は鬼木もこういったマインドを持っていました。アントラーズの良いところとフロンターレの良いところをうまく合わせて、表現してほしいですね。
アントラーズは24年シーズン終盤、ランコ・ポポヴィッチ監督を解任し、中後雅喜コーチを昇格させてシーズンを乗り切りました。サッカーにおいて、監督よりコーチの方が選手のことをよく観察していることがしばしばあります。中後はシンプルめな4-4-2を採用し、右サイドハーフを務めていた師岡柊生をFWで起用しました。初陣のアビスパ福岡戦は3-4-2-1でしたが、以降は伝統的な4-4-2。鈴木優磨と師岡を前線で組ませました。
中後の采配も参考に!
師岡は積極的にDFラインの裏を狙ったり、推進力をいかしたドリブルで相手DFを押し下げました。DFとボランチの間にできたバイタルエリアに鈴木が1.5列気味に落ちてタメを作った。時間がない中でも機能しているように見えました。中後はきっと、「師岡は一番前で使った方が面白いはず」と考えていたのでしょう。
鬼木はおそらく、これらの戦い方を参考にするでしょう。鬼木と中後はボランチの選手でしたし、付言すれば同じ千葉県育ち(笑)。彼らの“ダブルボランチ”コンビがいまから楽しみです。
厳しいシーズンを乗り切るためには、オフ明けからの走り込みが重要です。僕は現役の時、さっちん(里内猛さん、現アントラーズヘッドオブコーチング兼ユースフィジカルアドバイザー)にかなり走らされた(笑)。住友金属からアントラーズになったばかりの時、心拍数を計測するハートレートモニターが導入されました。これを胸周りに装着し、ゴルフ場を散々走った記憶があります。心拍数を見て、ちゃんと本気で走っているか否かがわかる(バレる)ので、「おい! 手ぇ抜いて走ってんじゃねぇ!」と怒られたものです。しかし、冬から春にかけてしっかり追い込み、心肺機能を高めておくことで、厳しい夏場でも失速せず乗り切れます。ランニング中心のメニューはキツイですが、選手たちには頑張ってもらいましょう。
僕のシニアサッカー活動も継続しています。先日は八千代市によるオーバー60・招待大会に参加しました。僕は八千代FCの左センターバックとして試合に出場しました。第1回大会の優勝はTドリ(TDreams-60)。このチームには0対2で敗れたため、非常に悔しい。鬼木同様「勝つチームの空気を肌で感じていた」ひとりとして、やっぱりやるからには勝ちたかったなぁ……。
さて、読者のみなさん。今年も僕のコラムにお付き合いいただき、誠にありがとうございました。来年も「ZAGUEIROの眼」をよろしくお願いします。それでは、よいお年をお迎えください。
●大野俊三(おおの・しゅんぞう)
<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。
*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。