私にとっては初めてとなるBCリーグでのシーズンが開幕し、約1カ月が経とうとしています。信濃グランセローズは11日現在、13試合を終えて5勝6敗2分という成績です。このリーグで勝つためには、NPBとは違う難しさがあるなと痛感しています。「これなら勝てるだろう」と思っていると、予想外のミスが出たりして、まさかの展開になることは少なくありません。まさに、最後まで勝負の行方はわからないのです。
 2月から自主トレーニング、キャンプ、オープン戦と重ねてきた中で、それぞれの投手の特徴をつかみ、起用法を考えてきました。ところが、実際に開幕してみると、当初考えていたようにはいっていないというのが現状です。特にリリーフ陣です。ストレートを中心に力で押すタイプの飯田達也(越谷西高−大正大)と鈴木幸介(成立学園高−日本ウェルネススポーツ専門学校)の2人なのですが、実戦ではそのストレートで押し切ることができないのです。

 さらに勝負球であるストレートをいかすための変化球の習得をオフの間に試みたものの、まだ実戦レベルにまでは至っていません。そのために変化球でカウントを悪くし、仕方なく投げたストレートを狙い打ちされるというパターンが多いのです。2人共に言えるのは変化球のレベルアップはもちろんですが、まずは思いっきり腕を振って自分の最大の武器であるストレートで押すこと。つまり、試合で自分の力を出し切れるようになることです。特に鈴木にいたっては、入団当初からストレートの威力には定評がありました。ところが、今はまだ140キロ前半しか出ていません。今後、試合でどんどん投げていく中で調子を上げていき、彼本来の力強いストレートを投げてくれることを期待しています。

 一方、先発は給前信吾(横浜商大高)、杉山慎(市立船橋高−日本大−全足利クラブ)、そして元NPBの金村暁(仙台育英高−日本ハム−阪神)です。給前と杉山に関しては、中継ぎ陣と同じ課題が挙げられます。彼らは昨季もリーグで投げているわけですから、当然、勝負球は給前ならストレート、杉山ならスライダーと、相手も2人を研究し攻略法を練ってきています。ですから、彼らへのテーマは「昨季とのイメージチェンジ」でした。そのため、オフには新球を覚え、実戦で使えるようにしようと取り組んできました。

 しかし、正直言って、2人共、完全には自分のモノにはできていません。その試合によって、投げられたり、投げられなかったり……。それが勝敗に大きく響いています。今後、勝ち星がもっとついてくると自信をもって投げられるようになることでしょう。自信は成長の一番の糧になります。自信をもって腕を振って投げるようになれば、目指すべき新スタイルが確立してくると思います。

 一方、実力は十分にあるものの、結果がついてきていないのが、金村です。彼の技術や経験は言わずと知れています。ですから、あとは自分のピッチングができるかどうかだけなのです。現在、3試合に先発して0勝3敗の金村ですが、決して肩の調子が悪いというわけではありません。2試合目こそ4回11安打6失点、2本塁打と新潟アルビレックスBC打線に打ちこまれてしまいましたが、1、3試合目は負けはしたものの、決して内容は悪くはありません。特に3試合目を見ると、徐々に調子が上向いているなということが感じられました。

 本来、金村は腕を振ることでの球のキレで勝負するタイプの投手です。ですから、彼の生命線はスピードというよりも、いかにストレートがキレているかということなのです。しかし、これまではシーズン途中からの入団だったこともあり、投げ込みが十分ではありませんでした。それもあって、腕が振れていなかったのです。その結果、未だに白星を挙げられていません。一番悔しい思いをしているのは彼自身でしょう。「こんなはずじゃない」とイライラ感も募っているはずです。しかし、これから暑くなり、他の若手投手がバテ気味にのとは逆に、どんどん調子を上げていくはずです。そうなれば、今以上に若手のいい見本となってくれることでしょう。

 もちろん、今でも金村は投手陣にとっては非常に大きい存在です。どちらかというと、大人しい性格の選手が多い中、金村の方からどんどん声をかけてくれています。「思いっきりいけばいい」と前向きなアドバイスや、時には厳しいことも言ってくれますので、コーチの私としても非常にありがたいですね。元NPB選手ですから、私が言いたいことも理解してくれています。選手と指導者とのいい仲介役になってくれているのです。ですから、あとは結果のみということになるでしょう。結果が出てくれば、若手からの信頼もより高まるでしょうし、さらに投手陣の先頭に立ってどんどん引っ張ってくれることでしょう。そうなれば、自ずとチームも活気づきます。

 2日には新たに中村尚史(武蔵工大付高−中央大−クリーブランド・インディアンス1Aレイククンティ・キャプテンズ)が入団しました。中村は194センチとリーグ一の長身で、サイドスロー気味のやや変則的な投げ方をします。そのためにくせ球が多く、打者も苦戦を強いられることになります。彼には飯田、鈴木とともにリリーフを任せるつもりです。自分とは全く違うタイプの中村が加入したことで、飯田や鈴木はもちろん、他の投手陣にもいい刺激となっているようです。給前、杉山、金村の先発3本柱が確立し、飯田、鈴木、中村のリリーフ3本柱が安定してくれば、思い描いた通りの強固な投手陣を築くことができます。彼らの今後の活躍をぜひ、期待してください。

酒井光次郎(さかい・みつじろうプロフィール>:信濃グランセローズコーチ
1968年1月31日、大阪府生まれ。松山商入学後に投手に転向し、1年秋からエースナンバーを背負った。2年時には春、夏連続で甲子園に出場。春は初戦敗退するも、夏はベスト8進出に貢献した。近畿大学時代には3、4年と全日本大学選手権連覇を果たす。1990年、ドラフト1位で日本ハムに入団。1年目で10勝をマークし、パ・リーグ会長特別表彰を受賞した。97年に阪神に移籍し、その年限りで現役を引退。98年からは台湾ナショナルチームの投手コーチを務め、2004年のアテネ五輪出場に貢献した。05年、統一ライオンズの投手コーチに就任。08年から3年間は横浜のスカウト、スコアラーを務めた。今季、信濃グランセローズの投手コーチに就任した。
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