第1173回 高校球児参加で磨きかかるルール改正議論

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 高校野球が大きく変わろうとしている。9回制から7回制への変更の他、DH制やビデオ検証の導入についても議論されているという。

 

 高野連がこうしたルール改正を検討している背景として、少子化による部員数の減少、熱中症リスクの回避、投手の負担軽減など避けては通れない問題が山積していることがあげられる。

 

 それらを先送りすることなく、議論の俎上に載せるという高野連の攻めの姿勢は高く評価していい。高校野球を持続可能なものにしたい、という強い意志が窺える。かくなる上はメリットとデメリットを精査し、選手の利益最優先で、早急に答えを出してもらいたい。

 

 ひとつ提案がある。意思決定機関の中に、当事者である高校球児も入れてみてはどうだろう。高野連関係者や有識者ら、おとなだけで決めるのではなく、彼らの意見も聞き、それを新ルールに反映させて欲しい。そうすることで、よりプレーヤーズファーストの色が強まるのではないか。中には「アンケートを取ればいい」という意見もあるようだが、それでは当事者意識は育まれまい。

 

 一口に高校球児といっても、高校野球への思いは千差万別だ。将来、プロを目指す者もいれば、野球は高校を卒業するまで、と決めている者もいる。甲子園常連の強豪校の部員と、1回戦突破を目標とする「参加することに意義がある」的な弱小校の部員とでは、もとより取り組む姿勢にも大きな違いがある。

 

 それでも、懸命に白球を追う姿勢に変わりはない。どんなに点差がついても、ゲームセットまで全力を尽くす彼らの姿を目のあたりにすると、心を打たれる。

 

 昨年夏、知的障がいのある生徒が通う都立青鳥特別支援学校が、特別支援学校としては初の単独チームで西東京大会に出場し、話題を集めた。初戦で都立東村山西高と対戦し、0対66で5回コールド負けを喫したが、アウトひとつとるたびに、あれだけ大きな拍手が送られる試合を私は初めて見た。高校野球の「原点」に触れた気がした。彼らにとって、高校野球は、どんな存在なのだろう。

 

 私見だが、日本人は総じてルールを「守る」のは得意だが、「つくる」ことには不熱心で、その意欲にも乏しい。それは子どもの頃から「校則を守る子がいい子」という教育に慣らされてきたからだろう。ルールは本来、「つくる」「守る」「変える」の3段階からなる。高校球児に「つくる」こと、すなわちルールメイキングの喜びや難しさを味わわせることはできないものか。

 

 未だに上位下達が幅を利かせるスポーツの世界では軽視されがちだが、子どもにも「意見表明権」がある。日本も批准している「子どもの権利条約」の第12条で、はっきりと明記されている。高校野球を「教育の一環」と規定するのなら、権利の主体者である球児の意見にこそ耳を傾けるべきだろう。

 

<この原稿は25年1月15日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>

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