第274回「国スポなんていらない!?」

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「国スポ」と言ってもピンとこない人の方が多いかもしれない。

 正式名称は「国民スポーツ大会」で、もともと「国民体育大会(通称=国体)」と呼ばれていたものだ。「体育」から「スポーツ」へと変わる流れの中、「日本体育協会」が「日本スポーツ協会」に変更したように、「国体」も「国スポ」になった。

 

 しかし名前が変わったらからとて、内容まで変わったわけではない。

 全国の自治体が持ち回りで開催されるスポーツ大会で、高校生から壮年まで幅広い方が競い合う場として昭和21年から長く開催されてきた。

 私も高校生から社会人になるまで何度も出場したが、インターハイやインカレに出場するより一般の方からは国体に出ていたことの方が尊敬されたと記憶している。

 しかし、この国スポ理念は形骸化し、自治体の大きな負担となっており、もうやめてもいいのではないかという意見が出ている。

 

 スポーツ庁によると、国スポは<広く国民の間にスポーツを普及し国民の体力向上を図るとともに,地方スポーツの振興と地方文化の発展に寄与することが目的>とされている。

 確かにスポーツには目標がないと盛り上がらないので、こうした大会を開催することには大きな意味があった。各自治体対抗とすることで、地域のスポーツ界を盛り上げてきたことも確かである。また、地域持ち回りにしたことで、様々な場所にスポーツ文化を広げていくことができた。また、他の大会と違うのは様々な年齢層の選手が自治体チームとしてまとまることで、普段はない交流が生まれるのも魅力である。

 

 国スポの開催規模は大きく、昨年秋に開催された佐賀大会では約2万5000人が参加した。当然、開催地の負担は小さくない。競技会場整備や競技運営はもちろん、ボランティアもかなりの人数を用意しなければいけない。「国スポ開催した後は、他のイベントに人手が集まらない」と嘆いている自治体をいくつも見てきた。この「費用」と「人」というリソースは、人口減少が進む自治体にはかなり厳しいものとなっており、全国知事会などでもこれまでたびたび議題になり、多くの知事から見直しを求める声が上がっている。

 

 競技によっては国体以上にプライオリティの高い大会が多くあるため、トップ選手の競い合う場ではなくなっているのが現実だ。

 

開催方法の見直しも

 このように社会状況が変化していく中で、国スポの位置づけも大きく変化してきている。このまま本当に継続していくことが必要なのかという議論は不可避であると考える。

 ただ、状況は競技によっても異なり、マイナースポーツにおいては国スポが中心的な役割を果たしているケースもある。また開催自治体が好成績を収めるために、開催の数年前から各競技の有力選手を雇用することが増えている。これが自治体の負担になっている面もあるのだが、一方で選手が競技を続けられる環境を確保できているのも事実。国スポをなくしてしまえば、こうした基盤は失われ、日本社会におけるスポーツのプライオリティが下がってしまうことは間違いないだろう。

 

 そこで、開催方法の見直しというのが重要になってくる。

 まず、一つの自治体がすべての競技を請け負うというのではなく、“地域請負制”への移行だ。一つの自治体ではなく、地域で請け負うことで、点在している施設を使うことができる。五輪でもこんな意見が出ていると聞いているし、今年愛知で開催されるアジア競技大会は、水泳と馬術に関しては東京で実施される。施設を新たに造るのではなく、競技を既存の施設に振り分けていくという考え方だ。

 

 開催地を競技ごとに固定するとの考え方もある。「このスポーツはここ!」というように地域特性にすることで、その地域の施設や体制といった基盤構築にも貢献できる。同じ地域で毎年続けていくことにより、地域の恒例行事となり得る。ただ、これらはどこに何を割り振るのか、自治体間の調整が相当難航しそうではあるが……。

 

 また、トップ選手を出すように競技団体に働きかけ、活性化しようという動きもある。だが、IOC、IF(国際競技団体)との調整も必要となり、簡単ではない。

 

 まあ課題山積で前途多難な国スポだが、間違いなく言えるのは、このままでは確実に立ち行かなくなるということだ。今後も継続していくためには開催目的を、状況にあったものに改めて設定し直し、そのためにはどうあるべきかを既成概念に囚われず作り直すべきではないかと思う。リニューアルでなく、「新しい国スポをつくる」ぐらいの意識でなければ、おそらくその場しのぎのものに終わるだろう。

 日本のスポーツの本気が問われている。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

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