第273回「東京マラソンへはどこへ!? ~出場料値上げに際して~」

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 東京マラソンが2026年大会より値上げされる方向だ。

 現状1万6500円が、国内参加料を3300円増の1万9800円、海外参加料を70ドル増の230ドルとする方向で調整が進んでいる。

 

「マラソンを走るのに2万円かかるのか~」という声が聞こえてくるのも仕方がない。つい十数年前までマラソンの参加料は1万円以下が普通で、1万円超は都市マラソンだけに許されていたところがあった。それが今ではほとんどのマラソンが1万円を超え、コロナ禍を経て2万円超の大会も出てきた。マラソン界のインフレ化は確実に進んでいるようだ。

 

 この傾向は世界的にも同様で、ニューヨークマラソンは315ドル(約5万円)で抽選倍率25倍。ロンドンマラソンの一般枠は146ポンド(約2万8000円)だが、抽選倍率30倍もある。一般ランナーが出場するためには、チャリティ枠でエントリーすることもできるが、これには2000ポンド(約38万円)の寄付をするという高いハードルがある。このほかにも旅行会社枠というのも存在する。旅行会社が買い取った枠を旅行代金に上乗せして販売するのだが、日本人がこうした大会に出る際には、この枠で入るケースが多い。そして、当然ではあるが、かなりの値段を払う構造になっている。

 

 また東京マラソンは、世界の都市マラソンの頂点ともいえるアボット・ワールドマラソンメジャーズに入っている。メジャーズにはニューヨーク、ロンドン、シカゴ、ボストン、ベルリンという世界有数の大会が入っているのだが、こうやって見ると、この中で東京はまだかなり安価なのかもと思ってしまう。海外とのインフレ格差はこんなところにも表れているようだ。

 

 東京マラソンを運営する財団は、コロナ禍において大会の延期や中止などにより、収入が大幅に減少し運営資金が不足、基本財産を切り崩して耐え忍んでいる状況だ。また路上競技ならではの、入場料が得られないという難しさもあり、大会収入の7割が協賛金。当然のことながら、企業業績等に大きく影響される。

 

 さらに近年は、物価高騰の影響を受け、大会資材にかかる経費はかなり上昇している。不安定な世界状況などから大規模イベントに求められる警備レベルは年々上がっており、運営経費も膨れ上がる一方だ。さらに、世界最高水準の大会として、外国人ランナー増加にも対応が必要で、そうした面でも経費は嵩んでいく。

 

日本のマラソンシーンをけん引

 

 日本で初めて「マラソン」という名称を使ったのは、1909年3月に神戸の湊川から大阪の西成大橋までの約32キロで実施された「マラソン大競走」だと言われている。これが日本におけるマラソン元年とするならば、次なるマラソン新時代は2007年ではないかと私は見ている。その年に日本における楽しいマラソン、都市マラソンという新しい扉を東京マラソンが開けたからである。

 

 マラソンをご存じの方はよくお分かりだと思うが、それまでのマラソン大会は、競技の延長にあるマラソン競技会に過ぎず、楽しい演出、イベント的な要素は極めて少なかった。当時、私があるマラソン大会のMCを担当した時、スタート前に音楽をかけた演出をしたら、関係者が驚いたということがあったくらいだ。だからこそ当時の市民ランナーは、楽しいマラソンの象徴であるホノルルマラソンに憧れ、多くの方にマラソンデビューの舞台として選ばれていた。

 

 東京マラソンが開催され、日本国内のマラソン大会の雰囲気はどんどん変わり、ランナー人口も広がった。また、他の大都市でも開催されるようになり、ランナー層も広がっていった。その後も東京マラソンは進化を続け、ボランティアの在り方、チャリティ、エントリー方法、国際化など多くの面で国内のマラソンをリードしてきたと言っても過言ではない。どの大会も、東京マラソンの動向をつぶさにチェックしているのは間違いなく、東京は日本のマラソンシーンをけん引している。

 

 つまり東京マラソンは唯一無二な大会で、すでに一般的なマラソン大会ではなくなっている。財団が試算した2024大会年度の経済波及効果は、都内で375億7000万円、国内だと526億円に上り、大会の影響力はランナーだけに留まらない。世界に誇る、日本の業界をリードする大会として継続的に開催し、スポーツイベントとしてはもちろん、社会活動、経済活動に関しても影響力を高めるべきなのだ。

 

 これからも、ランナーにとってはもちろん、東京という街にとっても魅力的なマラソンであり続けて欲しい。

 

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

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