デフサッカー男子日本代表、4・2聖地国立でクリアソン新宿と対戦
28日、日本ろう者サッカー協会(JDFA)が東京・国立競技場で記者会見を行った。デフサッカー男子日本代表とJFLクリアソン新宿とのエキシビションマッチの開催(4月2日、国立競技場)を発表。会見にはデフサッカー男子日本代表の吉田匡良監督、キャプテンの松元卓巳、副キャプテンの古島啓太ほか、クリアソン新宿の丸山和大代表取締役社長CEO、北島秀朗監督、キャプテンの須藤岳晟が出席した。

(写真:デフリンピック東京大会の機運醸成も狙いのひとつ)
異例ずくめの試合開催だ。デフサッカー日本代表の試合がサッカーの聖地・国立で行われる。チケットは2月10日から販売スタート。JDFAは1万人の集客を目指している。チケットは2月10日から販売スタート。11月に開幕するデフリンピック東京大会の機運醸成、そしてデフサッカーの認知拡大&代表強化のための過去例に見ない試みである。
舞台の国立はサッカー関係者にとって特別な地である。旧国立では、デフサッカー男子日本代表の吉田監督が1998年に東福岡高校1年生時に全国高校サッカー選手権連覇を経験した。クリアソン新宿の北嶋監督は市立船橋高校時代を含め、何度も国立のピッチに足を踏み入れている。またクリアソン新宿は国立で2度、ホームゲームを開催。昨年6月のFCティアモ枚方戦ではJFL記録となる1万6480人の観客を集めた。
吉田監督は「サッカーの聖地。今回国立競技場で試合ができるのは本当に幸せです」と率直な思いを述べた。松元は「1年生の時に高校選手権決勝でスタンドに応援に来ました。2023年は天皇杯の決勝戦のオープニングセレモニーでスピーチをさせていただきました。その時に古島選手と『次はグラウンドに立ちたいね』と話しましたが、こうやって実現できたことが感慨深いです」と自身のエピソードを話し、こう続けた。
「僕は日本代表として今年19年目になりますが、以前は代表の練習といえど小学校の校庭や土の公園でやっていたので、サッカーの聖地で試合ができるなんて夢のまた夢でした。支えてくださる方々には感謝の気持ちでいっぱいです」
開催に至った経緯を丸山CEOはこう説明した。
「吉田監督とのご縁でクリアソン新宿というクラブにご興味をいただいた。我々自身、会社を立ち上げたのが11年前。その時にご縁があったのはブラインドサッカー協会さんです。5年ほどオフィスをシェアして、今も業務提携をしながら事業連携をさせていただいています。ダイバーシティの文脈で、“違いは個性”と学びをたくさんいただいた経験がある。まずはすごく楽しみだというのが第一印象でした。(開催日の)4月2日はシーズンが始まっている。北嶋監督に相談したところ、二つ返事でした。(本拠地の)新宿区の皆さんもダイバーシティ、多文化共生の文脈は共感し、連携をしていただける方が多い。この試合をデフリンピックという存在を広く知っていただく機会にしたい。壮行試合とはいえ、世界一に向けた大事な試合。我々もひとつひとつの試合もすべて大事だという考え方で戦っている。いい試合をして勝ちたいと思っています」
デフサッカー日本代表は2023年マレーシアW杯で準優勝(優勝はウクライナ)している。現在世界ランキングは6位。世界一に向け、この試合で弾みを付けたいところだ。古島が「JFLというカテゴリーと試合するのは初めて。どんな相手でも勝てないといけない。それがデフリンピックで優勝するために必要なこと。結果にこだわりたい」と言えば、松元も「胸を借りるという言葉を使って試合をしたい。僕らは11月のデフリンピックで世界一を本気で目指している。日本代表として、日の丸を背負わせていただく。どこが相手でも負けていい試合はないと思っている。4月2日は、ぜひガチンコでよろしくお願いします」と同席したクリアソン新宿側に呼び掛けた。
一方のクリアソン新宿もデフサッカー男子日本代表の壮行試合だからといって、花を持たせる気はないという。北嶋監督は「デフサッカー日本代表のためにもサッカーで苦しめて、“嫌だな”と思うようなプレーをいっぱいしたい。デフリンピックが楽に感じられるくらいのサッカーを僕らがしたい」と迎え撃つことを誓った。
2016年にJDFAを含む7つの障がい者サッカー団体をまとめる日本障がい者サッカー連盟(JIFF)が発足し、日本サッカー協会の関連団体となった。23年にはサッカー日本代表とのユニホーム統一。着実に一歩ずつ前を進んでいる。デフサッカーを初めて19年目を迎える松元は言葉を詰まらせながら、こう振り返った。
「かつては大会に出るたびユニホームを自分たちで買っていました。サッカーにはユニホーム交換をする文化がある。海外の選手からは日本のユニホームを求められるが、交換したら次の試合に出られなくなってしまう。『No thank you』と答えるしかなかった。それが2023年4月に7つの団体が同じJFAのユニホームを着れることとなった。自分が現役の間に着れると思っていなかった。子どもたちにそういう環境をつくりたい思いで動いていたが、自分も着られるようになった。合宿に行くバスでその報せが入ってきた。それまでの苦労がひとつ実った。今まで一緒に戦ってきた仲間にも着させてあげたかったという思いもあります。本当に僕たちにとっては大きな一歩です」
さらに続ける。
「今年、クリアソン新宿さんと国立で試合ができる。今まで想像できなかったことが続いている。世界一を取ると言いながらも予選を突破したことがないチームが2年前(W杯で)初めて決勝に行った。世界一を現実として見える位置にやってきた。ここまでいろいろありましたが、やってきて良かった。苦労をした時代があったからこそ、今の時代があることを若い選手にも受け継がないといけない。この環境に甘えることなく、日本サッカーが強いということをいろいろな方面から世界に発信しなくてはいけないと思っています」

(吉田監督は手話を交えて挨拶。昨年、代表監督に就任したばかりである)
10カ月後に東京で開幕するデフリンピック。その前に国立で代表の試合が行われることの意義は大きい。男女サッカーは福島のJヴィレッジが競技会場となるが、この試合をどれだけ青く染めることができるか。JDFAのみならず、日本サッカー界、日本のデフスポーツ界の組織力も試される一戦となりそうだ。
(文・写真/杉浦泰介)