2025 年のJ1開幕へ。“ミラクルヴェルディ”はあるか
2025年のJリーグが2月14日にいよいよ開幕する。
今季の見どころとしては2連覇を果たしたヴィッセル神戸が鹿島アントラーズに続く、史上2クラブ目となるリーグ3連覇を成し遂げるのか、終盤に失速したサンフレッチェ広島が今度こそ栄冠をつかむのか、それともJ1初昇格で優勝争いに身を置いたFC町田ゼルビアのように大穴のクラブが主役に躍り出るのか――。
筆者は神戸、広島の2強が優勝争いの軸になるとみているが、両チームは今季もACLとの過密日程を強いられることになる。ひょっとしたらと思わせてくれるのが、町田と同じくJ2から昇格して昨季6位と躍進した城福浩監督率いる東京ヴェルディである。
期待感の背景にはあるのは、昨年の戦力を上積みできたことだ。
現在の東京Vは潤沢な資金力のあるクラブではない。昨年7月にJリーグが公開した2023年度のクラブ経営情報によれば、人件費は7億7800万円(当時はJ2)とトップの数字を叩き出した浦和レッズ(38億6000万円)の5分の1程度。J1に昇格したとはいっても、その数字がはね上がることはなかっただろう。昨季は他クラブであまり出場機会に恵まれていない選手をレンタルで獲得しつつ、若手中心のチームを城福監督が徹底的に鍛え上げ、ハイライン&ハイプレスを持ち味とする攻撃的なスタイルを浸透させた。
となればシーズン後、成長した選手たちには他クラブから声が掛かるのは必定。“草刈り場”となる可能性もあったなかで、ほぼ現有戦力を確保できた。レンタルだった木村勇大、山見大登、染野唯月、林尚輝は完全移籍に切り替わっている。そのうえ鈴木海音、平川怜、福田湧矢ら楽しみな若手、中堅も続々と加わった。充実の編成面、戦術のベースアップ、チームの一体感、指揮官の求心力にプラスして若い選手たちの成長度合いを上乗せするなら、優勝争いに絡んできても不思議ではないと思える。
なかでも注目したいのはエースの木村だ。
昨年、京都サンガからレンタルで加入して先発に定着し、36試合に出場してチームトップの10得点をマークした。185㎝、84㎏の恵まれた体格を誇り、スピードとパワーを兼ね備える。ゴールに目がいきがちだが、彼を語るに「フォア・ザ・チーム」のプレーは外せない。Jリーグが公表する24年シーズンの選手スタッツによれば、被ファウル数は鈴木優磨(鹿島アントラーズ)の101に続き、91で2位。前線で体を張っている何よりの証拠である。昨年、彼に話を聞いた際、こう語っていた。
「自分を信じてボールを前に入れてくれるのに、自分のところでやられてしまったら意味がない。その責任と覚悟を持ってプレーしているつもりです」
守備ではハイプレスの先導役となる。迫力を持って激しく、しつこく。これは京都時代には目立たなかったもの。城福監督からみっちりと叩き込まれたというわけだ。
「相手に寄せるとしてもこれまでなら数歩手前で緩めていた部分がどこか染みついてしまっているところがありました。“そんな見せかけの守備じゃダメだ”とガツンと言われて、突っ込んでいけるようにもなりました。自分のところでボールを奪えなくとも自分の次、またその次で奪い切ってしまえばいいので。
守備をしっかりやったうえで攻撃していく。それが求められているし、チームに一番貢献できることでもあります。(守備が)好きとか嫌いじゃなくて、やるのが当たり前だっていう感覚になっています」
つぶれ役、守備の先導役という役割を果たしながらの2ケタゴールゆえに価値は高い。ポテンシャルから考えれば昨季は半ブレイク。今シーズンも己に課せられたミッションをこなしつつ、ゴール数をさらに伸ばして完全ブレイクすればチームは勢いづくに違いない。
東京Vは2月16日、東京・国立競技場でJ2から昇格した清水エスパルスを迎えて開幕戦を迎える。両者は2023年12月にJ1昇格プレーオフ決勝で対戦し、終了間際に染野がPKを決めて同点に追いつき、順位上位の東京Vが16年ぶりのJ1昇格を果たしたという因縁がある。場所も同じ国立だった。
経営規模の小さいクラブがリーグ制覇を果たすというミラクルと言えば、やはり岡崎慎司が活躍した2015~16年シーズン・プレミアリーグのレスターを思い出す。開幕2連勝からストーリーが始まっていることを考えれば、“ミラクルヴェルディ”となるにはどうスタートを切るかが大切だ。