失点後が大事。”復帰”朴一圭のマインド
20クラブ中、半数近い8チームが監督交代となった2025年のJ1が開幕した。
いずれも新監督を迎えた横浜F・マリノスとアルビレックス新潟の一戦(日産スタジアム)に足を運んだ。開始早々から強度全開のハイプレスでペースを握るアルビレックスは前半26分、左サイドバックの橋本健人がハーフウェーラインを越えた位置から裏を狙う絶好のロングパスを送り、走り込んだ逆サイドの太田修介がしっかりと左足で先制点を決めた。
樹森大介監督にとっては狙いどおりだったに違いない。チェルシーのアシスタントコーチ、イングランド代表ヘッドコーチなどを務めてきたスティーブ・ホーランド監督率いるF・マリノスは3-4-2-1から守備時にウイングバックを最終ラインに引き込んで左シャドーが中盤に落ちる5―3―2のような形になる。左シャドーが下がりつつ相手の右サイドバックを見るのに対して右シャドーはセンターバックにプレッシャーを掛けるため、中盤が相手の左サイドバックを捕まえるにはどうしてもタイムラグが生じる。アルビレックスはここをうまく利用したというわけだ。
F・マリノスの視点に立てば失点が多かった昨季の課題を解消すべく守備の整備を図っているのだが、重心がどうしても後ろにあるために持ち味である攻撃の迫力も生まれない。リードされてからなおアルビレックスのペースが強まったことからも「たかが1点」ではなく、大ダメージだったことがうかがわれる。
アルビレックスの積極性だけが目立った前半。アタッキングフットボールをフィロソフィーに置くF・マリノスがまさかシュートゼロに終わるとは思わなかった。
救ったのは2019年の優勝メンバーであり、サガン鳥栖から5シーズンぶりに復帰したGK朴一圭(パク・イルギュ)である。失点シーンを除けばことごとくシュートを防ぎ切った。
見せ場は後半10分。ペナルティーエリア内に入ってきた奥村仁のシュート、太田の左足ミドルと続けざまに弾き返し、最後は橋本のシュートをしっかりと手元に収めている。確かなセービング、機動力を活かした広い守備エリアでゴールを割らせず、チームも4バックへのシステム変更と前半から飛ばしまくったアルビレックスの疲労もあって最終的には1-1引き分けだった。
試合後のミックスゾーン取材では、失点シーンを悔しがる彼がいた。橋本のシュートを手に当てていただけに唇を噛むようにして語った。
「失点した時間帯がちょっと嫌でしたよね。試合がやっと落ち着いてきたタイミングでやられたので、相手に自信を与えてしまう形になりました。僕がしっかり止めることで逆に自分たちのリズムにできるようにしなきゃいけないし、チームとしても相手が勢いよく来たときにもっとはね返す力を身につけておかないと。(失点してからは)何をやってもうまくいかない状況になってしまって、(前半の残り時間を)どうやって持ち直していくかというのはみんなで考えていく必要があると思います」
“何をやってもうまくいかない状況”から守護神の安定したプレーがチームを次第に落ち着かせたのは事実だ。4シーズン半在籍したサガンでの経験が活かされていた。
「触っているのに弾き切れないで決められたというのは鳥栖でもよくありました。どうしてもそのことを考えてしまうし、悶々とした気持ちのままでプレーするとあんまり(パフォーマンスが)良くないなって気づかされて。いつからか、決められたらもうしょうがないって切り替えるようにしています。以前よりもリバウンドメンタリティはさらに強くなった気はしています」
35歳、存在感を増しての帰還はチームにとって何とも心強い。守備の再建を担うキーマンになることは言うまでもない。
「アラートにやっていても、よりアラートにしていかなきゃいけない。良い時間のときこそ隙は生まれるものだし、僕も含めて後ろの選手は予測してプレーすることが大切になってくるので。試合もそうですけど普段の練習から、引き締めていく声というのは出していきたいですね。きょうの経験を糧にすればいいし、切り替えてやっていけばいいだけのこと」
体制が変わって新しいものに取り組めば、うまくいかないことが出てくるのはよくある話。引きずることなく、切り替えて――。朴一圭のマインドは、きっとチームを前進させるはずである。