今季はいいスタートを切ることができました。毎年のように連敗を喫していた5月のGWも連勝を含み勝ち越しと、前半は投打ともにかみ合い、最大で貯金5、地区2位の石川ミリオンスターズとは4ゲーム差あったのです。ところが5月中旬以降、チームは歯車がかみ合わなくなってきています。8日現在、引き分けをはさんで6連敗。地区最下位に陥っています。
 歯車がかみ合わなくなったのは、5月14、15日の群馬ダイヤモンドペガサスとの2連戦で連敗したことから始まりました。前日の13日、富山でのナイターを終え、そのまま群馬へと移動。14日のデイゲームに臨みました。するとこの試合、せっかく俊足の選手がランナーに出ても、次打者のバントミスで二塁封殺、あるいは走塁ミスなどで自らチャンスの芽をつぶしてしまいました。こうしたミスを群馬ダイヤモンドペガサスは逃してはくれませんでした。翌日も同じようなミスが続き、群馬に連敗を喫したのです。

 ここからチームの連敗が始まりました。その要因の一つはエラーが増えたこと。今シーズンは失策率を減らすことを目標にキャンプでは練習を行ってきました。それがはじめのうちはうまくいっていたのですが、群馬戦の連敗でミスが重なったことで、逆に選手たちが意識し始めてしまったのでしょう。チーム全体にエラーが増え出しました。そしてそれに伴って打線が沈黙。投手陣にも勝ち星がつかなくなってしまったのです。

 逆に前期の序盤で苦しんだ石川や富山サンダーバーズがここにきて勢いづいています。それが余計に選手たちを弱気にさせているのでしょう。ゲームに対する貪欲さ、一つ一つのプレーに対する必死さが、他のチームと比べても薄い。その差が成績にもはっきりと表れているのです。

 しかし、明るい兆しを見せ始めてもいます。6日の富山戦、結果的には2−4と負けはしたものの、久々にいい内容のゲームをすることができました。最大の要因は、キャプテンの織田一生(福井高−東北福祉大−TDK千曲川−TDK)が今季初めて先発マスクを被ったことです。織田はスローイングへの不安を抱えていることから、今季は若手を育てようという方針のもと、DHにまわっていました。捕手としては3試合に途中出場したのみだったのです。

 序盤はチーム自体に勢いがありましたから、その力も借りて、勝ち星を積み重ねていました。しかし、前述したようにチームがつまづくと、勝てるはずの投手陣が崩れ始めました。いつもなら打ち取っていた球が、完璧にとらえられてしまうことが少なくなかったのです。これは配球が単純になり、打者によまれている証拠です。

 その打開策として経験豊富な織田を捕手として先発させたのが、6日の富山戦でした。織田は捕手としてのリーダーシップを発揮。投手それぞれの良さを引き出し、試合をしっかりと締めてくれました。このバッテリー間のリズムのよさが、野手にも影響を及ぼしました。例えば三塁手・内田享良(山梨学院大付高−専修大−IMGアカデミーズ−ケベックキャピタルズ−石川)が、いつもなら後逸しそうな打球を体でキャッチし、意地でもランナーをホームに返さないぞというプレーをしたり、ここのところバットに当てることさえもできず、簡単に三振していた石橋拓也(桐蔭学園高−駒澤大)が、2死二塁の場面でフルカウントまで粘ってタイムリー二塁打を放ったり……。ところどころで選手に勝つための必死さが出ていました。この試合が今後、チーム浮上のきっかけとなることでしょう。

 また、これから活躍が期待できそうな選手といえば、4月に途中入団した清水裕太(大阪桐蔭高)です。彼は一度、ケガで任意退団したのですが、痛めていた肩やヒジが癒えたことで再入団したのです。彼の打球は観ているものを魅了します。守備に定評のある他チームの内野手がいっぱいにグラブを出しても、全く及ばないような鋭い打球を飛ばしたり、センターへのライナー性の当たりが、そのまま失速せずにスタンドに入ったり……。さすがは現在、北海道日本ハムの4番を担っている中田翔の後輩です。

 さらに、最近バッティングフォームをかえ、コンパクトなバットの出し方を覚えたユン・アレックス中島(羽黒高−白鷗大)や、投手陣にも荒削りではあるものの、脅威的なボールを投げる若手投手など、これからが楽しみな選手がいます。ぜひ、球場に足を運んでもらい、彼らのプレーを見てもらいたいですね。


野田征稔(のだ・ゆきとし)プロフィール>:福井ミラクルエレファンツ監督
1941年12月5日、長崎県出身。PL学園高校、PL教団を経て1963年秋に阪神に入団。70年には88試合に出場し頭角を表し始めると、翌年よりセカンドのレギュラーとして定着。72年にはリーグ最多となる21個の犠打をマークした、75年に現役を引退。その後は阪神のマネジャー、二軍コーチ、フロント、二軍監督、スカウトを務めた。2008年、福井ミラクルエレファンツの野手コーチに就任。2010年より監督としてチームの指揮を執っている。
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