<私の場合、1500万円で買ったものが3億円で売れた。私はその金が借金の支払いに回るため、表に出してもよかったが、相手が金の出所を突かれたくないという事情もあって裏のままの取り引きにした>(『八百長 ―相撲協会一刀両断』)。自著で年寄名跡売買の実態について赤裸々に述べたのは今は亡き元大鳴戸親方(元関脇・高鉄山)である。当然、税務申告などしていないわけだから、この事案は紛うことなき「脱税」である。
 相撲協会改革の本丸は年寄名跡(親方株)の売買禁止だと繰り返し述べてきた。逆に言えば、この問題にメスを入れられないのであれば改革は頓挫したに等しい。名古屋場所の通常開催が決定し、NHKの中継も決まったことで改革機運がしぼみつつあるように感じるのは私だけか。

 親方株を取得するには日本国籍を有し、最高位が小結以上か、幕内通算20場所以上、もしくは十両以上(関取)を通算30場所以上という条件が定められている。加えて“親方株バブル”が崩壊した現在でも、株取得のためには最低でも1億円前後の資金が必要とみられている。

 相撲界における親方とは、プロ野球でいえばオーナー兼監督である。理事長にでもなればコミッショナー以上の強力な権限が与えられる。指導者としての資質に加え、人格、識見が問われるのは当然のことだ。
 ところが、現状では力士としての実績と資金力のみが親方になるための必要十分条件であり、それ以上の要素が求められることはない。この“間違いだらけの親方選び”の弊害が最も端的に表れたのが元時津風親方(元小結・双津竜)による力士暴行死事件ではなかったか。

 年寄名跡問題を巡っては、公益財団法人認定に向け、解決すべき重要課題に位置付ける監督官庁の文科省に対し、「いいなりになる必要はない」「介入し過ぎだ」との不満が一部の親方衆から上がっているという。

 ちょっと待ってほしい。それまで行政指導に対し、きわめて抑制的だった監督官庁に介入を許したのは、“不祥事のデパート”と化していた他ならぬ相撲協会ではないか。
既得権益には手を付けさせない。しかし新公益法人には移行させていただく――。こんなムシのいい話はない。真に問われているのは、この“ごっつあん体質”である。

<この原稿は11年6月8日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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