『ROUND AFTER ROUND.7』“スター”は遅れてやって来る!?
SEGA SAMMY LUX(セガサミー ルクス)は日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」に初年度から参画し、3度のチャンピオンシップ(CS)出場を果たしている。昨季は8位でCS出場を逃し、今季もROUND.8終了時点で12位ともがいている。チームの初期メンバーで、現在はリーダーを務めるTAKIに話を聞いた。
LUXがトンネルを抜けたかと思われたのが1月23日に行われたROUND.7である。ROUND.2以来の白星を掴み、MVD(Most Valuable Dancer)にはTAKIが選ばれたからだ。
この日の4th MATCH。先攻のBenefit one MONOLIZ(ベネフィット・ワン モノリス)が艶かなショーを披露した後、LUXの出番が回ってきた。作品のテーマは「SPEED STER」。ヒップホップアーティストのTARO SOUL(タロー ソウル)による高速ラップに合わせて踊った。
「ディレクター(U-GE a.k.a YUGE)から『LUXの日常を表現したら面白いんじゃないの』という案をいただき、メンバーで作品制作をしました」
LUXの日常――。TAKI本人曰く「たまたま」リハーサルに遅刻したことがあり、それをネタに組み込んだら面白いんじゃないかというアイディアから生まれたショーケースだという。
入場シーンでは、カラフルでポップな衣装を着こなしていたメンバーの中、TAKI1人だけが枕を抱えパジャマ姿で現れた。眠そうな表情でステージまで歩き、シグネチャームーブを踊る7人を尻目に1人横になった。
一度は袖に下がったが、ショーが始まってもTAKIは現れない……。1分以上が経過した後、慌てて飛び出してきた。勢いよくステージを横切ったTAKIはエースパフォーマンスで溜めていたエネルギーを一気に放出した。ソロパートを終えると、土下座して謝るムーブ。メンバーから許しを得ると、そこから8人が横一列に並ぶシンクロパフォーマンスを披露した。
演出上、自らの出番まで1分を超える時間、袖で待機していたTAKI。その時の心境はいかに――。
「みんながめっちゃカマシてくれていた。全然プレッシャーもなかったですし、むしろ“オイシイ”と思っていたんです。それまで休んでいたからこそ、出た時のインパクトを示せる。ファンの皆さんも絶対待ってくれていたんで、一発目の踊り出しがエースパフォーマンスだったので、そこに全集中できた。“もうこれはいったな”っていう感覚もありましたね」
ラストの20秒間は「SPEED STER」のテーマの如く、8人で息をつかせぬような高速ステップで観客をグイッと引き込んだ。
「高速ステップはマジでウチの強みだと思っていますし、テーマがSPEED STERだったので、まさにという作品でした。そのスピード感で圧倒させつつ、でもシンクロではちょっとこう落ち着かせていったけど、徐々にBPM(曲のテンポ)も上げていくLUXらしさを出せた。最後に超高速ステップ入れ、“勝てる作品”という実感もありました」
ジャッジは「テクニック」以外の5票(「オーディエンス」「コレオグラフィー」「ステージング」「シンクロパフォーマンス」「エースパフォーマンス」)を獲得。5対1で勝利した。折り返し地点のROUND.7で掴んだ自信を手に、TAKIは「前半戦悔しい思いをして、しゃがんでいる状態だった。今日のラウンドをきっかけにちょっと宙に浮いた。これで勢いに乗れると思うので、ここから大ジャンプできるように、CSに繋げたいと思います」と誓った。
しかし勝負の世界は甘くなかった。続くROUND.8では得意の足技を生かした作品で、DYM MESSENGERS(ディーワイエム メッセンジャーズ)に挑んだが1対5で敗れ、連勝はできなかった。インタビューはこの直後に話を聞いたが、肩を落とすことなく前を向いて実直に答えていたのが印象的だった。
「まずはCS圏内に入ることが目標です。今はもう頑張るとしか言えない。目の前にある一戦一戦を大切にしながら、ガムシャラに頑張って、結果を出し、ファンの皆さんに返していくしかないと思っています」
TAKIはファンに対し、「返す」という言葉をよく口にする。ROUND.7後の囲み取材では、LUMEN(LUXファンの呼称)に対し、「本当にいつも支えられています」と感謝を忘れない。「自分たちは負けが続いてしまって、結果で返せていないということが悔しかった」とも。そのことについて、改めて聞くと、こう返ってきた。
「だって俺らのチームはそこにいっぱい救われてきましたから。LUXを結成した4、5年前からずっと掲げているのが、“D.LEAGUEのスター軍団になる”という目標。その当時から応援してくださっている方もいるし、最近知ってくださったファンの皆さんもいる。LUXが今D.LEAGUEで活動できているのも、ファンの皆さんのおかげ。その応援がなかったら、自分たちが勝てなかったステージもあったと思います。ダンスのスキルだけで言えば、上手い人なんか山ほどいるし、上手いチームもいっぱいある、だから自分たちはステージに立っているというより、立たせてもらっていると思うほど、たくさんの方に応援してもらっているんです」
勝ちを後押ししてくれたのがファンなら、勝てなかった時期を支えてくれているのもファンだった。
「どれだけ負けて悔しくても、お見送りでファンの皆さんの言葉とか笑顔を見たら、やっぱり元気なりますね。そこに救われて、“明日から頑張ろう”と思えます」
だからこそTAKIにとってD.LEAGUEは特別なステージであり、LUXは特別な居場所であり、LUMENは特別な存在なのである。LUXでDリーガーとなったのは10人組ダンス&ボーカルグループ「THE JET BOY BANGER」(TJBB)としてデビューする前の話だ。当時ディレクターのBOBBY(現ゼネラルプロデューサー)からスカウトされてLUXに加わった。
「ただの一般人がプロダンサーとして出させてもらって、こんなにもたくさんの方に応援していただけている。D.LEAGUEは人生の分岐点です」
TAKIはLUXのDリーガーとしての顔と、TJBBのパフォーマーとしての活動を並行するハードなスケジュールを日々過ごしている。
「スケジュールはきついですけど、両立するって決めましたから。それにチーム愛が強いので辞められない。あとはアーティスト活動をしていくことでD.LEAGUEに還元できることがあるし、逆にDリーガーをしているからこそTJBBを知ってもらえるという相乗効果もある。それを実感するんで、めっちゃ頑張っています。どちらもメンバーの人生がかかっていますし、だからこそ両方大切にしないと失礼だっていう部分が自分の中では大きいですね」
TJBBのメンバーには、LUXのHINATAとNOSUKE、CyberAgent Legit(サイバーエージェント レジット)のTAKUMIと地獄、SEPTENI RAPTURES(セプテーニラプチャーズ)のShigetoraとAOIというTAKIと同じくDリーガーを兼務している者がいる。
「みんなの存在はめちゃくちゃ刺激になっていますね。ステージ上ではバッチバチやけど、同じグループとして同じスケジュールを過ごしているわけですから、もうリスペクトしかない。“よくこの過密なスケジュールで、このクオリティーを出せるな”と。もちろん、戦う時は本気で戦い、そこに勝ち負けがある。次の日は、そのTJBBの活動で一緒にライブしたりと目まぐるしいっすよね」
LegitのTAKUMIはTAKIがD.LEAGUEで最も意識するダンサーだという。D.LEAGUEでは所属チームのリーダーという共通点もある。ただ相談し合うようなことはない。
「たぶんお互いが抱えている悩みは全然違いますから。ただ阿吽の呼吸じゃないですが、言葉にせずともわかる部分がある。“お互い頑張ろうな”みたいな、そういう感じですかね」
チーム愛、メンバー愛、ファンへの愛情に溢れるTAKIだが、インタビューの最後に個人の目標を訊ねた。
「オレは圧倒的スーパースターになりたいっすね。自分の中の大きい目標なんですけど、でもやっぱスターだなって思われたいんですよね。“やっぱD.LEAGUEのスターといえばTAKIだよね”と。まずはDリーガーとして成長していき、アーティストとしてもパフォーマンスしながらも輝いていきたい。それだけじゃないジャンルの仕事もいっぱいしたいですね。モデルやお芝居とか」
彼が理想とする誰もが知るスーパースターになるのは簡単ではないだろう。ただ、少年のように目を輝かせながら語る彼の真っ直ぐさもTAKIの魅力のひとつである。
(文・写真/杉浦泰介)