ここまで香川は借金3の4位。昨季からの3期連続優勝を逃し、低迷した原因は投手陣の崩壊にあります。5月の連休には徳島に点の取り合いの末、3タテを喫し、5月15日の同カードでは初回に10失点してしまいました。攻撃陣は頑張っていただけに、あと5試合ほど投手陣が踏ん張っていれば、今頃は間違いなく優勝争いに加われていたはずです。
 誤算のひとつは元NPB組の不振です。前川勝彦(元オリックス)、伊藤秀範(元東京ヤクルト)、山中達也(元広島)の3選手はいずれも期待にこたえられていません。昨季、年間MVPに輝いた前川は足を痛めた影響もあり、ここまで1勝4敗、防御率4.42と苦しんでいます。しかし、プロである以上、マウンドに上がればケガは言い訳にできません。それは本人が一番、分かっているはずでしょう。内容を見れば、自らのミスでピンチを広げているケースも少なくありませんし、リーグ2年目に入って相手も研究しています。成績が悪化しているのは、単なるケガだけが理由でないのは明らかです。今、他球団は前川に対して「打てる」と手応えをもって対戦してきます。これを封じるにはさらに自らのレベルを上げることが大切です。

 若手が思うような成績を残せなかったのも大きな誤算でした。このコーナーでも紹介した河野(かわの)忠義は経験を積ませようと何度か先発させたものの、0勝3敗、防御率13.50。これは結果が出なくても西田真二監督に起用を進言した僕に責任があります。彼は1、2年先にはドラフト指名も狙える素材です。先発で1つ勝てば自信がつき、波に乗って伸びてくれると判断したのですが、まだ、その段階は早すぎたのかもしれません。

 最近は近い将来、NPBへ行くための準備として、下半身強化を中心にハードなトレー二ングを課しています。結果が出ていないだけに、モチベーションの低下を心配しましたが、幸い本人は意欲的に取り組んでくれています。実際に下半身を鍛えたことで球速もMAXで145キロをマークし、本人も成長を実感しているのでしょう。

 河野に対しては、この機会を利用してフォームの微調整にも着手しました。それまでのフォームはスリークォーターから得意のカーブを投げるのには適していたのですが、肝心のストレートになると腕が振れなくなる欠点がありました。ですから本人と相談の上、ストレートを投げる際に一番力が入る位置に、若干腕を下げたのです。これにより、ストレートはもちろんスライダーもよく曲がるようになりました。この新フォームをモノにすれば、後期こそは初勝利ができるはずです。

 そして、もうひとり後期の巻き返しへ楽しみなのが左腕の山中です。ここまで1勝1敗、防御率5.96と元NPB投手としてはふがいない成績ですが、このところ状態が上がっています。特に古巣との対決になった由宇での広島2軍との交流戦では好投をみせました。元チームメイトと久々の再会を果たし、いいところを見せたいと気持ちも入ったのでしょう。コントロール、キレともに抜群の内容でした。まだ球速が130キロ台と威力がないだけに、これが140キロ近くまでアップすれば、そう打たれることはないでしょう。

「これから1カ月に1回は由宇に行け!」
 思わず本人にそう声をかけたほどです。22歳とまだ若いだけに、もう1度、NPBに戻るチャンスは充分にあります。地元出身選手でもありますし、後期こそは香川を盛り上げるピッチングを見せてほしいものです。

 前期は徳島が貯金10で初優勝に向けて勝ち星を重ねている一方で、三重が借金14を抱え、首位から最下位まで差が大きく開きました。ただ、実際に対戦していると各球団の実力差はさほど大きくないと感じます。おそらく後期は混戦になるでしょう。そのためにも前期の残り5試合をいい形で終え、逆襲の夏への足がかりをつくりたいですね。前期はファンの皆さんに申し訳ない戦いをみせてしまいました。このままでは終われないとの気持ちは誰もが持っています。引き続きの応援、よろしくお願いします。


天野浩一(あまの・こういち)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
1979年4月12日、香川県出身。高松東高、四国学院大を経て2002年、ドラフト10巡目で広島に入団。2年目には貴重な中継ぎとして49試合に登板した。06年オフに自由契約となり、翌年、香川に入団。前期は先発、後期はリリーバーとして41試合に登板し、7勝6敗13セーブの好成績で最多セーブを獲得。リーグ優勝および独立リーグ日本一に大きく貢献した。08年はプレーイングコーチとして福井に入団。23試合に登板し、0勝2敗8セーブと主に抑えとして活躍した。09年は藤田平前監督の後任として福井の指揮を執った。現役時代(NPB)の通算成績は121試合、5勝6敗、防御率4.45。
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