いよいよ前期も大詰めを迎えています。22日現在、富山サンダーバーズは15勝15敗3分けで、2008年以来となる地区優勝にマジック2が点灯しています。どの試合も決して楽ではありませんが、チームはいい流れで戦うことができています。このまま前期優勝を飾り、いち早くプレーオフ進出への切符をつかみとりたいと思います。
 さて、現在は北陸地区の首位となっている富山ですが、今季のスタートはガタガタでした。開幕戦から3試合連続で白星なしに終わり、ようやく1勝したかと思えば、3連敗を喫しました。そして2勝目を挙げたかと思えば、今度は4連敗と、なかなかチームの歯車がかみ合わなかったのです。

 チーム浮上のきっかけとなったのは5月13日の福井ミラクルエレファンツ戦でした。この試合は2−1と1点リードで最終回を迎えます。先発の田中孝次(釜利谷高−帝京平成大)が簡単に2死を取り、4試合ぶりの勝利まであとアウト一つ。田中は次打者も平凡なレフトフライに打ち取ります。ところが、これを左翼手が落球。記録的にはヒットとなりましたが、明らかに守備のミスでした。さらにヒットを許し、2死一、二塁。ここでファーストゴロに打ち取ります。ようやくゲームセットかと思った矢先、一塁手がベースカバーに入ったピッチャーに悪送球。この間にランナー2人が返り、逆転を許したのです。結局、その裏、富山は三者凡退に終わり、2−4で負けてしまいました。

 実はこの一つ前の試合で、同じく2−4で福井に負けていたのです。試合後、横田久則監督と私は選手に厳しい言葉を投げました。「オマエたちは6球団で一番弱い」と。休日を一日はさんで翌日の練習では、選手たちは皆、真剣な表情で練習に取り組んでいました。ところが、その翌日の試合が前述した13日の福井戦だったのです。ですから、おそらく選手たちは我々が言った言葉をより重く受け止め、本気で変わらなければいけないことを痛感したのでしょう。翌日の石川ミリオンスターズ戦から4連勝し、ここからチームが波に乗りました。

 横田監督と私がチームに言い続けているのは、やるべきことをやる。ただそれだけです。しかし、歯車がかみ合わなかった時期の選手たちは、実力以上のことをやろうと背伸びをしているように見えました。そこで、「まずはチームとして決めたことを、全員でやっていこう」と。例えば、バッターであれば基本に忠実に、センター返しをすること。勝っている試合はこれができている時なのです。

 さて、今季のチームは新人が多く、昨季と比べると、非常に若返りました。その中で駒井昌之(博多高−常磐大−ヒタチエクスプレス−長崎セインツ)や近藤琢磨(福知山成美高−大阪リゾート&スポーツ専門学校−京都ファイアーバーズ−明石レッドソルジャーズ)といった独立リーグ経験者が、センターラインに入ってくれたことが大きいですね。特に駒井は三拍子そろった選手で、打率、打点、本塁打の3部門でリーグベスト10に入っています。彼は長崎時代に大きなケガをして野球ができない時期がありました。ですから今、野球ができる喜びでいっぱいなのです。それがプレーにも表れているのでしょう。チームをグイグイと引っ張ってくれています。

 その駒井と同じく野手ではチーム最年長なのが町田一也(倉吉北高−NOMOベースボールクラブ)です。彼は富山に入団して5シーズン目を迎えました。町田の目標はもちろんNPBにいくこと。そのためにも、これまでは自分のウリである長打力に磨きをかけようとしてきました。確かにBCリーグでは長距離打者でしょう。しかし、NPBにいけば、町田は確実に中距離打者です。そのことがようやく町田も身に染みてわかったのでしょう。今季は4番ながら、場面によってはヒットやバントといったチームバッティングに徹してくれています。これが現在の好成績につながっているのです。

 さて、昨季から力を入れてきた守備はというと、今季は軽率なミスはだいぶ少なくなってきました。しかし、ミスが完全になくなったというわけではなく、技術的な課題は山積しています。とはいえ、現状の実力でいえば、まずまずだと思います。特に一番力をつけたなと感じるのは、2年目の七條勝志(東福岡高−帝京平成大)です。1年目の昨季は体づくりが中心でしたが、そのおかげで体の芯がしっかりてきました。打球への反応もよくなり、うまく体を使ってプレーすることできるようになりました。今季は開幕からセカンドのレギュラーをつかみ、打順も2番に定着しています。これからさらなる活躍を期待したいですね。

 また、今月15日から打順を1番に上げたのが1年目の池田長州(汎愛高−関東学園大)です。彼は本来、長打力のある打者ですが、それだけに大きいのを打とうとして、大きな体の使い方をしていました。しかし、それではキレのあるボールには差し込まれてしまいます。実際、非常に三振が多かったのです。そこでスイングをコンパクトにし、ボールをきちんと見極めて、ヒットを打つことを意識させました。ここにきて、ようやく実を結び始めたようです。19日の石川戦では、なんと5打数5安打をマークしました。コンパクトなスイングでヒットを放つ基本ができるようになれば、大きなスイングをした時でも、自ずとバットの芯でボールを捉えることができるはずです。池田も少しずつ打者としての幅を広げていってほしいと思っています。

 さて、前述したように前期は残すところあと3試合。全て信濃グランセローズ戦です。今季、信濃とは1点差で負けた開幕戦以来となります。自分たちもそうですが、当然、信濃も開幕戦とはチーム事情も選手の力も変わってきていることでしょう。ですから、対策となると非常に難しいというのが正直なところです。とはいえ、やることは今までと変わりません。相手がどこであろうと、自分たちのやるべきことをやる。投手はストライクゾーンに投げる。打者はセンター返しを徹底する。この基本を守って、しっかりと戦いたいと思います。

進藤達哉(しんどう・たつや)プロフィール>:富山サンダーバーズコーチ
1970年1月14日、富山県高岡市出身。高岡商では1年夏、3年夏に甲子園に出場。1988年、ドラフト外で大洋(現・横浜)に入団。5年目からレギュラーに定着し、98年の38年ぶりとなるリーグ優勝および日本一に大きく貢献した。97〜99年には3年連続でゴールデングラブ賞を獲得。01年、交換トレードでオリックスに移籍し、03年限りで現役を引退した。翌04年には横浜の内野守備コーチに就任。08〜09年は同球団でスカウトを務めた。2010年より富山の守備コーチとなった。
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