古い資料を調べていて驚いた。今からちょうど52年前の1959年6月25日に後楽園球場で行なわれたプロ野球史上初の天覧試合、巨人―阪神戦の試合時間はわずか2時間10分なのだ。
 天覧試合といえば長嶋茂雄のレフトポール際のサヨナラホームランが今でも語り草だが、他にもONの初めてのアベックホームランあり、藤本勝巳の勝ち越し2ランあり、ピンチの芽を摘んだ藤田元司と広岡達朗のアイコンタクトによる牽制刺殺あり、牛若丸・吉田義男のファインプレーあり、そして村山実の真っ向勝負ありと内容は盛りだくさんなのだ。スコアもシーソーゲームの末の5−4だから野球を堪能するには申し分ない。主審を務めた島秀之助は「まるで作られたドラマのような試合であった」と述べている。

 繰り返すが、これだけメニューがぎっしり詰まっていて2時間10分である。どう見積もっても今なら3時間10分はかかる。昨季の1試合あたりの平均時間は3時間13分(延長戦などを含まず)。半世紀を経て、野球はかくも時間のかかるスポーツになってしまったのだ。

 実はこの天覧試合には後日談がある。長嶋の劇的なサヨナラホームランが飛び出した時、後楽園の時計は9時12分を指していた。天皇、皇后両陛下の観戦終了予定は9時15分。「最後まで観戦する」という話もあったようだが、警備の問題を考えれば、時間を大きくは動かせなかったはずだ。つまり、長嶋のホームランが飛び出さなければ、両陛下は試合の結末をご覧になれなかった可能性が高いのだ。そうなれば天覧試合の意味合いも随分変わっていただろう。

 では、なぜ両陛下の観戦時間は、あらかじめ2時間15分と定められていたのか。これは今でも謎なのだが、次のような推理が成り立つ。関係者によれば当時の平均試合時間は1時間45分。これに30分加えると2時間15分。これだけの時間を見込んでおけば、余程のことがない限り、最後まで見届けられると宮内庁や主催者側は判断したのではないか。

 今季の交流戦終了時点での平均試合時間はセが3時間4分、パは3時間2分。昨季よりセは8分、パは10分短縮されたが、52年前の天覧試合をプロ野球の理想型とするなら、球界はさらなるスピードアップに励まなくてはならない。

<この原稿は11年6月22日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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