日本サッカー界に地殻変動が起きつつある。Jリーグが開幕した1993年前後に生まれた若い世代が台頭してきたのだ。メキシコで開催されているU−17W杯では日本がジャマイカ、フランス、アルゼンチンという強豪国ひしめくグループリーグを突破。決勝トーナメントに進出した。

 香川はカンフーファイター?

 そんな若手の筆頭株ともいえるのが、22歳の香川真司(ドルトムント)だろう。昨季は1月のアジアカップ中にケガをして、シーズン後半を棒に振ったが、それまでの活躍は目を見張るものがあった。香川がその存在をドイツ中に知らしめたのは第4節、敵地で行われたシャルケ04との“ルール・ダービー”だ。ルール地方といえばライン川とルール川下流域に広がるドイツ屈指の重工業地帯。近隣の工業都市同士の対決とあって、戦いはどのダービーにも増して熱を帯びる。そんな注目の1戦で香川は2ゴールをあげ、勝利の立役者になったのだから周囲は放ってはおかない。

「日本にも大きなダービーがあるかどうか知らないが、この試合はドイツ最大のダービー。欧州でも屈指のダービーなんだ」
 監督のユルゲン・クロップは興奮した口調で言い、こう続けた。
「シンジはこれでドルトムントの人たちから絶対に忘れられない存在になっただろう」
 香川は身長172センチと小柄だが、動きがシャープでボールの扱いも巧みだ。ダービーでの2点目についてクラブの公式サイトでは「まるでカンフーファイターのようだ」との記述がある。クロスを左足で合わせた跳び蹴りのようなボレーシュートを見れば、誰だってそう思うだろう。

「ドルトムントで終わる気はありません」
 香川は、はっきりそう口にしている。この先どこまで成長するのか。その未来には無限の可能性が広がっている。

 全責任を背負う男、GK権田

 彼に代表されるU−22世代は、この6月、来年に迫ったロンドン五輪への出場権を目指し、クウェートとのアジア2次予選に臨んだ。結果はホームで3−1、アウェーで1−2。1勝1敗だが得失点差でわずかに上回り、最終予選進出を決めた。現在のU-22代表を名実ともに牽引しているのが、GKの権田修一(FC東京)だ。権田はこの1月、日本代表の一員としてアジアカップ制覇を経験した。今季はU-22代表としてロンドン五輪を目指しつつ、クラブのJ1復帰に貢献する。187センチの大きな背中には、これまで以上に大きな責任がのしかかっている。

 全責任を背負う――責任の所在が曖昧なケースが目立つ昨今の社会において、その言葉は一層、輝きを放つ。当然、責任を負うためには、責任を果たせる自分でいる必要があるのは言うまでもない。
「キーパーは一発勝負じゃないですか。だから、すべてをそのひとつのプレーにかけるところが結構ある。いろいろと不摂生なんかをしていると、ボールに届きそうで届かなかった時に絶対、後悔する。そういう後悔したくなるシーンがバーッと出てくるのだけはイヤですから」

 権田は練習の虫として知られる。練習が始まっても一切、手を抜くことはなく、納得がいくまでやめない。「アイツは本当にストイックですよ」。チームの誰に聞いても、そんな言葉が返ってくる。
「ピッチに立つからには責任もあるし、そこに立つということはそれに見合ったプレーをしないといけない。チームが勝つためにベストを尽くさないといけない。僕自身には何かを我慢しているという感覚はないですね。だって当たり前でしょう? 責任があるんですから」
 その姿勢はどこに行っても変わらない。日本代表の練習でも最後まで居残り、切り上げようとしたザッケローニ監督を呆れさせたほどだ。

 この年代は3年前、AFCU-19選手権で宿敵・韓国に敗れ、U-20W杯への出場を逃した過去を持つ。日本がU-20W杯に出られなかったのは8大会ぶりの屈辱だった。主将だった権田も悔し涙を流した。
「あの時に足りなかったこと、あの時に犯したミスをもう一度繰り返さないという思いは当然あります」

 移籍の宇佐美、日本に何を残す?

 雪辱を期しているのは、権田だけではない。この時のU-19代表メンバーだったMF山本康祐(磐田)は自身のスパイクに敗れた韓国戦の日付「2008.11.8」を刺繍している。
「そういう気持ちを康祐が持ってくれていることはうれしいです。悔しさを忘れるんじゃなく乗り越える。やっぱり僕は悔しさを味わった人間は強くなると思っています。だから、あの時も“これでサッカーが終わるわけじゃない”と声をかけたんです」と権田は語っていた。9月からはいよいよ最終予選がスタートする。真に強くなった姿を見せる機会はもう間もなくやってくる。

 今回の五輪2次予選のメンバーには選出されなかったものの、G大阪の宇佐美貴史も今後が楽しみな選手だ。このほど、ブンデスリーガの強豪バイエルンミュンヘンへの移籍が決まった。この6月のキリンカップではA代表にも初招集されている。その選出は明らかに将来を見据えたものだ。宇佐美は昨季のJリーグでベストヤングプレーヤーに輝いた逸材。ただ、今季は開幕からなかなかゴールが生まれなかった。

「今のパフォーマンスでは代表チームに値しない」
 抜擢にもかかわらず、ザッケローニ監督は厳しい評価を下していた。「早く完成形に近い選手になるよう努力してほしいと伝えるつもり」と代表では直接指導した。海を渡るまで、ガンバのユニホームを着てプレーできるのは、あと数試合。日本でどんなプレーを置き土産にするのか注目である。

 愛媛のメッシ、齋藤

 今後の五輪代表入り、海外挑戦が期待できる選手のひとりとしては愛媛FCの齋藤学の名前をあげておきたい。ここまで15試合に出場し、5得点。彼の活躍もあって昨季まで得点力不足に泣いたチームが一時は昇格圏内の3位に浮上する原動力になっている。

「愛媛には重要な選手。瞬発力もあり、ワンタッチでボールも出せて他の選手を使える。チーム全体が良かれ、悪かれ、1人で試合の流れを変えられる」
 イヴィッツア・バルバリッチ監督が「齋藤が2人いればいいのに」と思わず漏らすほどチームには不可欠な存在だ。

 165センチと小柄ながら、緑のピッチに立つと、そのオレンジのユニホームは輝きを放つ。圧巻だったのは5月8日の湘南ベルマーレ戦だ。J1から降格してきた格上相手に残り10分を切って0−1と1点ビハインド。重苦しい雰囲気が愛媛ベンチには漂っていた。だが、ロングフィードを前線のFW福田健二が胸で落とすと、そのボールにすばやく反応。持ち前のスピードで相手の最終ラインを翻弄すると、ゴール前の中央左寄りから右サイドにドリブルでスルスルと移動し、右足を振り抜いた。鮮やかな同点ゴール。
「愛媛のメッシにやられた」
 敵将の反町康治監督にそう言わしめるほど、たったひとりで試合の流れを変えた。

 U-17時代はAFC選手権優勝に貢献し、ワールドカップも経験している。このまま結果を出し続ければ、再び代表の青いユニホームを着る可能性も高まってくるはずだ。

 振り返ってみれば、今をときめく長友佑都(インテル・ミラノ)も昨季の初めはJリーグでプレーしていた。それは香川や岡崎慎司(シュトゥットガルト)も同じである。これは裏を返せば、Jリーグにまだまだダイヤモンドの原石が転がっていることを意味している。第2の長友や香川は誰か。J1、J2全試合放送中のスカパー!で、あなたなりのスター候補を発掘してみてはいかがだろうか。



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