「感動した」だけで終わらせてはいけない羽生結弦のnotte stellata

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 プロフィギュアスケーター・羽生結弦が座長を務めた「notte stellata2025」が9日、幕を閉じた。7日に行なわれた初日公演、会場のセキスイハイムスーパーアリーナには6256人が足を運んだ。

 

 アイスショー「notte stellata」は、羽生らトップスケーターとスペシャル・ゲストが東日本大震災の被災地から希望を発信することがコンセプトである。2023年から始まり、今年で3回目となった。今回のスペシャル・ゲストは狂言師・野村萬斎だった。

 

 毎年、アリーナ前の広場には防災啓発ポスターが掲示されている。広告モデルはもちろん羽生だ。私は、メディアを通じて防災の大切さを説く羽生に感化された一人だ。就寝時、枕元に使い古したフットサルシューズを置いて寝るようになった。捨てるはずだった物に新たな役割が生まれ、シューズが微笑んでいるように見えた。

 

アリーナ前の防災啓発ポスター 撮影:筆者

 今回のnotte stellataでは、メインアリーナに併設されているサブアリーナ内にて、石川・輪島の出張朝市も催された。輪島塗のお椀や箸、石川県の人々が加工した食品が並んでいた。

 

 私的な話で大変恐縮である。私の飲み仲間・Mは能登半島地震で友人を亡くした。防災啓発ポスターと輪島出張朝市を見て、Mが私に話してくれたことを思い出した。

 

「笛さえあれば友人は助かったかもしれないんだって。がれきの下敷きになって身動きが取れない時、とにかく音を発することがすごく重要らしいんだ。体力が低下して声が出しにくくなっても、笛なら微量な息でも音を出せる可能性がある。そんな立派な笛じゃなくていいみたい。笛があるだけで助かったはずの命が……、たくさんあるんだ」

 

 羽生の話に戻ろう。notte stellata2025初日公演後、彼は語った。

「この会場で滑っている全員で、少しでも3.11やいろんな災害に対してできること、何かのきっかけになるようにと願いながら、祈りながら滑らせていただきました」

 

 続けて、こう述べた。

「自分がnotte stellataというアイスショーに出演させてもらっていることとか、“自分の役割とはなんぞや?”ということを問われているような気もしました」

 

 彼の役割はプロスケーターとして人々に極上のエンターテインメントを提供することだ。そして、防災の重要性を広める役割も担っている。

 

 私は防災用ホイッスルについて調べ始めた。「羽生の演技がすごかった」「萬斎さんの舞いもさすがだった」「感動した」だけでnotte stellataを終わらせてはいけない気がしたから――。

 

(文・写真/大木雄貴)

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