第301回 船木誠勝、デビュー40周年。忘れ難きヒクソン・グレイシーとの死闘─3・31トークショーに注目!
船木誠勝が15歳でプロレスデビューしてから40年が経つ。彼が2000年5月26日、東京ドーム『コロシアム2000』でヒクソン・グレイシーと闘ってからも四半世紀が経過しようとしているのだ。

(写真:今月、デビュー40周年を迎えた船木誠勝 ©藤村ノゾミ)
刻の流れは速い――。
そして船木は、いまもプロレスのリングでトップファイターとして闘っている。3月13日、東京・後楽園ホール『ストロングスタイルプロレスVol.33 ―THE 20th ANNIVERSARY YEAR―』のメインで王者スーパー・タイガーに勝利、第20代レジェンド王座に就いた。56歳の誕生日に8年ぶりの載冠。まだまだ血気盛んだ。
船木の40年に及ぶ闘いを振り返る時、真っ先に思い浮かべるのはやはりヒクソンとの死闘だ。
思い起こすと、いまでも手に汗握る。
ヒクソンは東京ドームのリングで3度闘っている。
▶1997年10月11日、『PRIDE.1』
〇ヒクソン・グレイシー(腕ひしぎ十字固め、1ラウンド4分47秒)髙田延彦●
▶1998年10月11日、『PRIDE.4』
〇ヒクソン・グレイシー(腕ひしぎ十字固め、1ラウンド9分30秒)髙田延彦●
▶2000年5月26日、『コロシアム2000』
〇ヒクソン・グレイシー(チョークスリーパー、1ラウンド11分46秒)船木誠勝●
この中で試合内容的に、もっとも緊迫感がもたらされたのはヒクソンvs.船木である。それは船木が、死をも覚悟して闘いに挑んだからにほかならない。
前半は、船木が優位に試合を進めていた。
スタンドで組み合い、ヒクソンに寝技に持ち込ませなかった。そして離れ際に放ったパンチで多大なダメージを与えもしたのだ。この一撃でヒクソンは眼窩底骨折、数十秒間、両目の視力を失う危機的状況にも追い込まれている。

(写真:2000年5月、東京ドームでのヒクソン・グレイシー戦。この「猪木-アリ状態」の時、ヒクソンは両目の視力を失っていた ©真崎貴夫)
ただこの時、船木はヒクソンが両目の視力を失っていることに気づけなかった。いや、ヒクソンが、それを周囲に悟らせなかったと言うべきか。
数十秒間続いた「猪木-アリ状態」。この時に船木が一気呵成に攻め込んでいれば「まさか!」の結果に導かれていたのかもしれない。
徐々に視力を取り戻したヒクソンは、ここから反撃に出る。
組み合いからグランド攻防に持ち込むと、アッサリとマウントポジションを奪った。そこから今度は船木の背後にまわり込み、すかさずチョークスリーパーを決めた。
ヒクソンの腕が完璧に喉元に巻き付いている。ドーム内が騒然となる中、船木が失神し試合は終わった。死を覚悟してリングに上がった船木は最後までタップを拒否。記憶に残る凄絶な闘いだった。
ヒクソンの船木への想い
数年後、すでに現役を引退していたヒクソンに私は尋ねた。
日本での9試合の中で、もっとも印象に残っている試合はどれか、と。
ヒクソンは、こう答えた。
「フナキとの試合だ。あの時、自分は窮地に追い込まれた。両眼の視力を失ったのは初めての経験だったからね。それにフナキは覚悟を持って自分に向かってきてくれた。完全にチョークが決まってもタップしなかった。フナキは単なる選手ではなくウォリアー(戦士)だったと思う。
結果的に自分にとって、あれが最後の試合になった。その相手がウォリアーのフナキでよかった」

(写真:現在はフリーとして、さまざまな団体のリングに上がっている船木誠勝。昨年7月『闘宝伝承』のリングで75歳になった師・藤原喜明ともタッグを組んだ ©藤村ノゾミ)
あれから25年、総合格闘技界は大きく変わった。
かつては体重無差別で最強を決める闘いがメインだったが、いまは細かく階級分けがなされ競技化されている。さらに「最強」を決める闘いよりも人気選手同士の試合がもてはやされるようにもなっている。
それが時代のニーズならば仕方なかろう。ただ、格闘技を長く見続けてきたものとしては一抹の寂しさを感じる。
「ヒクソンvs.船木」は20世紀最後の名勝負、覚悟ある闘いだった。
40年闘い抜いてきた船木が、自らのファイティングロードを振り返る書籍が今月、刊行される。
『船木誠勝が語るプロレス・格闘技の強者たち』(竹書房)
これを記念して3月31日、18時30分から東京・神保町『書泉グランデ』で船木誠勝トークショーが開催される。
<直近の注目格闘技イベント>
▶3月15日(土)、東京・後楽園ホール/「DEEP 124 IMPACT」フェザー級GPトーナメント2025・1回戦ほか
▶3月16日(日)、東京・後楽園ホール/「PROFESSIONAL SHOOTO 2025 Vol.2」世界フェザー級タイトルマッチ、SASUKEvs.椿飛鳥ほか
▶3月23日(日)、東京・竹芝ニューピアホール/「DEEP TOKYO IMPACT 2025 1st ROUND」&「DEEP JEWELS 48」浜崎朱加vs.須田萌里ほか
▶3月23日(日)、さいたまスーパーアリーナ/「ONE172」ロッタン・ジットムアンノンvs.武尊ほか
▶3月29日(土)、東京・両国国技館/「RISE ELDORADO 2025」YA-MANvs.ミゲール・トリンダーデほか
▶3月29日(土)、愛知県国際展示場/プロボクシングIBF世界フライ級タイトルマッチ、アンヘル・アヤラ・ラジザバルvs.矢吹正道ほか
▶3月30日(日)、あなぶきアリーナ香川/「RIZIN.50」バンタム級タイトルマッチ、井上直樹vs.元谷友貴ほか
▶3月30日(日)、東京・後楽園ホール/「Krush.172」スーパーバンタム級タイトルマッチ、璃明武vs.池田幸司ほか
▶3月30日(日)、愛知県国際展示場/プロボクシングWBC世界ミニマム級タイトルマッチ、メルビン・ジェルサエムvs.重岡優大ほか
<近藤隆夫(こんどう・たかお)プロフィール>
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『伝説のオリンピックランナー“いだてん”金栗四三』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(いずれも汐文社)ほか多数。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)