第276回「部活動地域移行は誰のため?」

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 今、先生が忙しい。

 授業はもちろんそれに伴う準備、各種行事の準備と実施、家庭訪問、PTA、会議、研修……。

 そして何より近年では、保護者対応が非常に複雑で、時間も精神的な負担も大きくなっている。さらに部活動に伴う時間も負担になっていることが多く、先生はヘトヘトだ。

 

 私の弟は教員で、部活動に生き甲斐を感じているというが、どうやらそれはほんの一部のよう。このままでは先生も部活も持続できない。

 

 ということで、近年高まっている「部活の地域移行」。

 部活を学校内から、地域など外部に任していこうというものだ。

 先生の負担軽減はもちろんだが、生徒としても、専門性のある指導者から教われる、学校と距離の置いた活動ができるというメリットがある。このように双方win‐win施策なのだから推進しようと、スポーツ庁、文化庁は、部活動の地域連携・地域移行に3年間の「改革推進期間」としており、まもなく2年目が終わろうとしている。

 

 だが、現状ではさほど進んでいない。それは地域によって課題と状況が違うため、なかなか方策が示せないということがある。適切なコーチがいない、生徒が分散している、場所の確保、予算の確保が困難であるなど、その地域によってハードルが異なる。つまり行政が決まった形を進めても、その地域では上手く活用できないというケースが少なくない。

 

 それでも、渋谷区のように地域のリソースを利用し、学校の枠を超えて地域で様々なスポーツに取り組もうと進めている行政も出てきており、地域格差も大きくなってきている。

 

 と、ここまで話してきて、引っ掛かるのは、全て大人の事情であるということだ。

 先生の負担軽減のため、指導者や場所、財源を準備……そう、すべて大人目線の言葉で語られている。まあ実行していくのは大人なので、そこも大事だとは思うが、部活って誰のため、何のためのものだったのか。そこが抜け落ちていないか。

 

主役は子ども

 本来、部活目的は「子どもに様々な経験をさせ、探究的な学びを」というものであったはず。今回の部活動地域移行議論の中に、これが聞こえてこないのが気になるのだ。主役は子ども。子どもにとって、どんな部活がいいのか? 専門性が高い指導者だけがいいわけでもない。やはり部活である限り教育的な要素も必要で、それに資する指導者が必要だろう。また開催場所が遠すぎては継続性が下がってしまう。そんな子どもにとっての理想を追求する地域移行であって欲しい。

 

 また、日本のスポーツ教育の欠点と言われてきた、子どもの単一スポーツに特化する文化を変えられるチャンスではないかとも思っている。日本では1つの部活をぶれずに続けることが正しいとされ、それを推奨する傾向がある。その結果、幼少期から触れるスポーツが少なくなり、これが後々の伸びしろに影響しているというのはスポーツの世界では知られた話だ。

 

 海外選手は同然だが、国内でもメジャーリーグ、ドジャース大谷翔平選手や、女子やり投げの北口榛花選手がバドミントンと水泳に取り組んでいたことは有名。神経発達の目覚ましい6歳から12歳のゴールデンエイジの時に、いかに様々な神経を刺激できるかが、その後に大きく左右する。また、種目が変わり、異なったコミュニティに触れることで、社会性を養ったり、行き詰まった際の逃げ場になるので、社会性を構築するのにも有効だ。しかし、これまでの日本の部活制度では、それができなかった。

 

 今回、部活が生まれ変わるのに際し、こうしたスポーツ環境を変えることが出来るなら、地域移行の大きな成果にもなるのではないか。すでに東京都などでも、この方向性は検討されているという。日本の子どもたちの未来を広げてくれるような機会を大人たちは提供すべきで、スポーツ界としても注視したい。

 

 このように、これまでの長年の伝統や慣習を変える部活の地域移行は簡単ではない。

 しかし、教員負担軽減はもちろん、少子化などの社会状況として変えなければ、持続可能ではない。ならば、本来の目的に叶うような、子どもたちにより良い経験の機会を提供できるシステムにしていくべき。

 

 主語を「教員」でも「大人」でもなく、「子ども」にすることができるかどうか。

 海外事例も参考にしながら、新しい部活の在り方を模索していく時ではないだろうか。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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