団体としては初の国民栄誉賞受賞。「なでしこ」の面々と関係者には、心よりお祝い申し上げたい。
 震災後、沈滞ムード一色のこの国と国民に対し、粘り強い戦いを通じて、これ以上ないほどの勇気と希望を与えたことを考えれば受賞は当然だ。
 これまでの受賞者たちの顔ぶれを見ると、功なり名を遂げた、まさに国民的ヒーロー(ヒロイン)と呼べる方ばかり。だが、彼女たちは少なくともW杯が始まるまでは、いや決勝で米国をPK戦の末に下すまではほとんどが無名の存在だった。あるサッカー協会の幹部が「実は(準々決勝の)ドイツに勝つまで選手全員の名前と顔が一致しなかったんだよ」と言って苦笑していたが、私も人のことは言えない。
 そんな「無名の娘たち」が一夜にして「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があった」人間になれるのだから、この国もまだ捨てたものではない。まさしく彼女たちこそ“平成のシンデレラ”だ。

 このチームにあって現政権にないもの。それは使命感、一体感、連帯感、責任感、爽快感……。数え上げればきりがないが、だからと言って「なでしこ」から学べなどとご託宣を述べるつもりはない。
 しかし、この受賞を単なるセレモニーには終わらせてほしくない。これを機に決して良好とは言えない女子スポーツやマイナースポーツの環境改善につなげていかなければならない。

 6月に成立したスポーツ基本法には前文で<スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利>とうたわれている。これは憲法13条が定める幸福追求権がベースとなっている。
「国の責務」を明記しているのも新法の特徴だ。<国は、前条の基本理念にのっとり、スポーツに関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する>
 ここまでスポーツに対して理解と期待を示し「スポーツ立国」まで掲げている以上、国は「なでしこ」のみならず、恵まれない環境下でプレーする女子やマイナースポーツの選手、そして障害者アスリートを積極的にサポートしなければならない。文科省は女子選手を中心に支援策を検討する方針を示したが、その規模と中身に注目したい。シンデレラは日付が替われば元の召使いに戻る。そんな国であってはいけない。

<この原稿は11年8月3日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから