人生を変えた「お前を必ずチャンピオンにする」の一言 ~畑山隆則氏インタビュー~
多くの日本人世界王者の誕生で盛り上がるプロボクシング界。元世界2階級制覇の畑山隆則さんと当HP編集長・二宮清純が、畑山さんの現役時代を振り返りつつ、ボクシング談議に花を咲かせる。
二宮清純: まずは、「Prime Video Boxing 11」(2月24日、東京・有明アリーナ)の3試合についてお聞きします。初めにWBA世界バンタム級タイトルマッチですが、チャンピオンの堤聖也選手に比嘉大吾選手が挑んだ一戦は、両者がダウンを奪い合う壮絶な打ち合いの末、ドロー(引き分け)で堤選手がベルトを守りました。
畑山隆則: 個人的には、堤選手のほうが勝っていたのではないかと思っています。確かに前半は比嘉選手が優勢でしたが、後半は一気に堤選手が取り返した。まあ、死闘ともいえる試合内容でしたから、ドローで仕方ない気もしますけど。
二宮: 比嘉選手は試合後、「もういいかな」と言いましたが、ドローだったことで、またリングに上がるのではないでしょうか。
畑山: 2戦連続で世界チャンピオンといい勝負をしたことで、何となく満足しているのではないかという気がしています。何よりも、本人が「途中で誰と戦っているか分からなかった」と言うほどのダメージだったので、本当にやめるのではないでしょうか。
二宮: プロボクサーにとって引き分けというのは、やめるにやめられないものでは?
畑山: それはあります。特に世界戦の挑戦者の場合、チャンピオンと同じ力があるにもかかわらず相手は英雄になり、自分はただのボクサーのまま。ボクサーにとって世界チャンピオンは雲の上の存在ですから、その雲上の景色を見てみたいというのはみんな同じです。その意味では、ベルトを取っていない人にとってはやめるにやめられないところはあります。しかし、比嘉選手はすでに雲上の景色を見ている(2017年にWBC世界フライ級王座を獲得)ので、やめても不思議はないと思います。
二宮: 次は、那須川天心選手とジェーソン・モロニー(前WBO世界バンタム級王者)の10回戦です。天心選手にとっては、キックボクシングから転向して6戦目。6ラウンドにはあわやダウンかというパンチをもらいながらも、判定(3―0)で勝利を収めました。判定についての畑山さんの見解は?
畑山: あれは天心選手の勝利で問題ないでしょう。ただ、私はYouTube(渡嘉敷勝男&竹原慎二&畑山隆則 ぶっちゃけチャンネル)で「天心選手が世界チャンピオンになるのは間違いない」と言ってきました。だから、前世界王者の壁も簡単に突破すると期待していましたが、相手のパンチが効いている様子を見て、少し評価を下げざるを得ないかな。もちろん、それでも世界王者になるとは思っていますけど……。
二宮: 私はこの試合を見て、1991年の辰吉丈一郎さんとアブラハム・トーレスさんの一戦を思い出しました。デビューから飛ぶ鳥を落とす勢いだった辰吉さんが、初めて苦戦してドローに終わった。世界チャンピオンへの道のりは平たんではないし、苦戦を強いられて課題が見つかるのは悪いことではない。6ラウンドにパンチをもらって倒れそうになったものの、ギリギリで踏ん張ったのは足腰の強い証拠でしょう。
畑山: 練習の賜物でしょうね。それがなかったら倒れていたと思います。
二宮: ただ、課題は接近戦ですね。
畑山: 私もそう思います。天心選手は距離を取って戦うスタイルですが、長丁場になれば接近戦をやらざるを得なくなる。プロである以上、ただ勝てばいいわけではなく試合内容も重要で、そのために打ち合えるようにならなければいけません。離れた距離でのボクシングは、接近するとクリンチになることが多いので、そういう面ではお客さんに対するアピール力が不足します。もっとも、それは天心選手も課題として感じているんじゃないでしょうか。
二宮: 次は、WBCバンタム級チャンピオンの中谷潤人選手とダビド・クエジャル選手の一戦です。過去にダウン経験がない者同士の対決でしたが、中谷選手が3KO勝ちを収め、3度目の防衛に成功しました。
畑山: 序盤は中谷選手が少し硬くて不用意にパンチをもらったりもしましたが、彼には流れをつかんだら一気に畳みかけて試合を終わらせる力があります。
二宮: それが〝ビッグバン〟と言われるゆえんですね。中谷選手のトレーナーはルディ・エルナンデスさんですが、畑山さんも現役時代に教わっていましたね。彼の教え方は?
畑山: 私は現役時代の終盤にトレーナーとして迎えたわけで、中谷選手のように最初から彼に教わったわけではありません。なので単純な比較はできませんが、戦い方のリズムが、日本のトレーナーの教え方とはちょっと違います。中谷選手はサウスポーというだけでもやりにくいのに、それにプラスして懐が深い。日本人にはいないタイプのボクサーという印象があります。
二宮: 長い左の矢でドーンと刺すような感じですよね。
畑山: はい。ずっと日本にいたら、ああいうふうにはならなかったでしょう。
二宮: 世間では、世界4階級制覇王者・井上尚弥選手との一戦に期待が高まっています。中谷選手が一つ階級を上げなければなりませんが、もし実現すれば、辰吉対薬師寺(保栄)戦、畑山対坂本(博之)戦以来の日本人によるビッグマッチになります。
畑山: 私と坂本さんの試合はさて置き、辰吉さんと薬師寺さん以来の、日本人が〝心から見たい〟と思う試合になるでしょうね。
二宮: どちらが勝つにせよ、私は5ラウンド以内で決着がつくような気がします。
畑山: 気が早いですね(笑)。でも、どちらも倒しにかかるでしょうから、早期決着になる可能性が高い。
(詳しいインタビューは4月1日発売の『第三文明』2025年5月号をぜひご覧ください)
<畑山隆則(はたけやま・たかのり)プロフィール>
1975年7月28日、青森県青森市出身。小学校時代から野球に打ち込む一方、同郷のレパード玉熊(元WBA世界フライ級王者)の世界戦を見たことを機にプロボクサーに憧れを抱く。16歳の時に野球のスポーツ推薦で入学した高校を中退。辰吉丈一郎(元WBC世界バンタム級王者)の世界戦を見てプロボクサーを志し、上京してヨネクラジムへ入門する。その後、京浜川崎ボクシングジムに移籍し、韓国出身の柳和龍トレーナーに師事。93年にプロデビュー。98年にWBA世界スーパーフェザー級王座を獲得。99年に2度目の防衛に失敗し、現役引退を表明。2000年に現役復帰し、ルディ・エルナンデスをトレーナーに迎える。同年、階級をライト級に上げてWBA世界同級王座に挑戦し勝利。日本人4人目となる世界2階級制覇を成し遂げる。01年、3度目の防衛に失敗して現役を引退。現在はタレント活動やボクシング解説、YouTubeチャンネル「渡嘉敷勝男&竹原慎二&畑山隆則 ぶっちゃけチャンネル」などで活躍する傍ら、竹原と共同で「竹原慎二&畑山隆則ボクサ・フィットネス・ジム」を経営している。プロボクシング成績は29試合24勝(19KO)2敗3引き分け。