とにかくスケールの大きなピッチャーである。
 190cmの大きな体に最速148キロの速球。さらにウイニングショットのフォークボール。その投球にはNPBはもちろん、海の向こうのMLBからもスカウトがチェックに訪れる。兵庫ブルーサンダーズの今村圭佑は現在、関西独立リーグで最も注目されている右腕である。
 今季は速球を生かすため、主にクローザーを任され、前期終了時点で16試合に登板して、5セーブをあげている。1イニング平均1個以上の三振奪取率を誇る点が大きな魅力だ。この6月にはMLB入りも視野に、野茂英雄(元ドジャース)、伊良部秀輝(元ヤンキース)らの代理人だった団野村氏が代表を務めるマネジメント会社と契約を交わした。

  決め球となるフォークにはいくつかのバリエーションがある。カウントによって、握りを浅くして、落差を調整するのみならず、右打者のアウトコースへややスライド気味に落とすこともできる。ボールを支える親指をグッと内側に入れて手首をロックするのが鋭い変化のポイントだ。このままボールを目の前の空気の壁にぶつけるように腕を振り抜き、その反動で落とす。

 ストレートにも独自のこだわりがある。中指と人差し指の先を縫い目の上に立てるように握るのだ。
「リリースポイントで、(指の腹を使って)面でボールを切るのではなく、(指の先を使って)点でボールを切りたかったんです。放す瞬間にピッとボールを下に弾き飛ばすイメージで力を伝えたいと取り組んでいるうちに、この握りになりました」
 重要視するのはストレートのキレだ。「空振りの取れないストレートでは意味がない」。そう考えている。

 関西独立リーグで投げる理由

 一昨年に誕生した関西独立リーグは経営難のため、昨季途中から多くの球団が給料を支払えない状態に陥った。多くの選手は試合、練習の合間にアルバイトをして生計を立てている。それは今村も例外ではない。チームスポンサーのラーメン屋で週2回程度勤務する。翌日の練習開始が遅い時には朝の3時まで働くこともある。

 今村が所属していた神戸9クルーズも昨季限りでリーグから撤退した。野球により打ち込める他の独立リーグに移籍する選択肢もあった。だが、右腕はチームの受け皿となった新球団の兵庫でプレーする決心をする。
「給料が出るとか出ないとか、環境がいいとか悪いとかはありますが、野球をやっていることには変わりない。自分はこのリーグで育ててもらったと思っています。池内(豊)監督にも愛情を持って接してもらいましたし、この人についていけば、もう一回り大きいピッチャーになれると感じたんです」

 池内監督が新球団でも引き続き指揮を執ることは大きな決め手になった。池内監督は現役時代、阪神でリリーフとして活躍。82年に当時のリーグ記録となる72試合に登板している。サイドスローから内にくいこむシュートで右打者を苦しめた。引退後は阪急、オリックスで投手コーチやスコアラーを務め、中日では動作解析を担当。2軍時代のチェン・ウェインや吉見一起らのピッチングフォームをチェックした。プロのレベルを知る指揮官からのアドバイスは今村にとって目からウロコだった。

「フォームはバラバラでボールも荒れていたけど、勢いのあるボールが来る。トライアウトで見た時に“これは!”と感じるものがありました」
 コントロールには難があったが、バッターに恐れず、立ち向かっていく姿勢を買い、池内監督は昨季の開幕から今村を先発ローテーションの一角を任せた。すると前期だけで7勝をマーク。チームのリーグ制覇の立役者となった。

 福島千里のトレーニングで成長

 しかし、アマチュア時代と異なり、通年で戦う独立リーグのシーズンは長い。最初は楽に感じていた1週間ごとの先発も、次第に疲労がたまり、体が重くなっていく。疲れをとろうと休養を増やすと、逆に走り込みが少なくなり、下半身での踏ん張りが利かなくなった。完全な夏バテに陥った今村は後期、わずか1勝に終わってしまう。

「体の強さ、芯の強さがない」
 そう痛感した今村はオフに入って、あるトレーニングに着手する。陸上女子短距離界で活躍する福島千里も取り入れているロープを使った体幹強化だ。ロープを天井から吊るし、それにぶら下がりながら腹筋や腕立て伏せなどを実施する。
「最初は腕立ても1、2回が限度で、家に帰ると全身が寝返りも打てないほどの筋肉痛に襲われました。でも、徐々に回数や時間も増えて、今ではだいぶメニューもこなせるようになりました」
 
 冬が過ぎ、春になると、本人も驚くほどの効果が出た。
「体の中心の筋肉がついてフォームが安定し、リリースポイントが前になったので、ストレートのスピードやキレ、変化球の曲がりも良くなった。体重も増えて足も速くなった。すべてが変わりましたね」
 昨季までは上体に頼った投げ方だったが、今季は下半身を連動させ、体の使い方もうまくなった。大幅な進化に池内監督も「まだまだ伸びしろがある」とみている。190センチのビッグな右腕は、まだまだ底知れぬ可能性を秘めている。

(後編につづく)

今村圭佑(いまむら・けいすけ)プロフィール>
 1987年12月2日、愛知県生まれ。豊田大谷高時代は高3夏の県予選で決勝進出。決勝では先発を任されたが、堂上直倫(現中日)擁する愛工大名電に敗れ、甲子園出場を逃す。福岡経済大(現日本経済大)を経て、昨季より関西独立リーグの神戸9クルーズ入り。前期だけで先発で7勝(2敗)をあげ、優勝に貢献する。神戸の活動休止に伴い、今季からは兵庫へ。抑えに転向して前期の成績は16試合0勝2敗5S。MLB、NPBのスカウトから注目を集めている。長身から投げ下ろすMAX148キロの速球とフォークボールが持ち味。右投右打。身長190cm、体重90kg。



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