第215回 20歳の逸材、高井幸大
サッカー日本代表は3月20日、埼玉スタジアムで行なわれた北中米ワールドカップアジア最終予選第7戦の対バーレーン代表戦で2対0の勝利をおさめ、W杯出場を決めました。同予選3試合を残しての本大会の切符獲得は日本代表史上最速です。森保一監督、選手、スタッフ、関係者にはおめでとうとお疲れ様と声を掛けたいです。
バーレーン戦の先制点「縦-縦」
今予選を通して、選手たちの努力が見えました。ピッチ上でどう動くべきか、と言った判断はおそらく監督からの指示だけでなく自らの判断で動いた場面もあったでしょう。森保監督とともに前回大会から経験を積み、または自らの所属するリーグで揉まれて逞しくなっているのは明らかでした。
バーレーン戦では、森保監督の魂がみなぎっているように見えました。君が代が流れた際、目頭が熱くなっていた。何としても勝つという執念めいたものを感じました。
先制点のシーンを振り返りましょう。自陣でDF伊藤洋輝(バイエルン)がボールを持つと、最前線にいたFW上田綺世(フェイエノールト)がぽっかり空いた中盤のスペースに下り、伊藤から縦パスを受けました。上田はマーカーを背負いながらもワントラップで前を向くと、自らが空けたスペースに走り込むMF久保建英(レアルソシエダ)にスルーパス。久保はワントラップで前に出ると敵を引きつけ、MF鎌田大地(クリスタルパレス)にラストパス。これを鎌田はGKの動きを冷静に見極め、ゴール左に流し込みました。
上田が収めたシーンに注目しました。彼が2列目の選手にボールを落とすのではなく前を向き、前方を走る久保にパスを出したところで勝負あり。我々の時代(1993年あたり)だと、カズ(三浦知良)さんや武田らFWに当てて、ラモス瑠偉さんなど中盤の選手に落とし、サイドに展開するのがオーソドックスな流れでした。
しかし、現代のサッカーはとにかく縦に速い。後方に落としているほんの1秒、2秒で相手は守備陣形を整えます。数秒の遅れのせいでパスコースが消されてしまうのです。とにかく前に、縦に、速く攻めた伊藤、上田、久保、鎌田の連係は見事でした。久保はこのアシストだけにとどまらず、追加点で勝利を決定づけました。この日の久保を採点するなら10点満点中9点をつけてもいいでしょう。ゴール、得点以外にシャドーとしていたる所に顔を出し、味方にスペース提供していました。
鹿島神宮コース
アジア最終予選突破を決めて迎えたサウジアラビア代表戦。最後の崩しの部分で工夫がもう少し見られたら……と思う試合でした。それでも前半、FW前田大然(セルティック)に2度の決定機が訪れるなどチャンスはあった。1点さえ取れば、相手の出方はガラッと変わったでしょう。勝負を決めるなら前半でした。
この試合で特筆すべきはA代表初スタメンを飾ったDF高井幸大(川崎フロンターレ)でした。前半9分、MF田中碧(リーズ)に送った鋭い縦パスは見事でした。先の述べたバーレーン戦の先制点同様、この時のかたちも「縦-縦」のパスでした。試合終盤には2度の相手のカウンターを事前に阻止したプレーから、20歳とは思えない落ち着きを感じました。2つのうちの1つは、ダイレクトで日本の二次攻撃につないでみせました。192センチと高さもあり、パスの精度、パススピードも非凡なものがあります。DF冨安健洋(アーセナル)が出てきた時と同じくらい、またはそれ以上の期待感を抱いています。ぜひ、今後も怪我には気をつけて成長して欲しい。
さて、日本代表は同予選を2つ残しています。中にはアウェーでのオーストラリア代表戦が控えています。彼らはまだ予選突破を決めていません。真剣勝負で挑んでくる戦い甲斐のある相手。どんな戦い方、どんなメンバーで試すのか、ここに注目です。僕は、高井をあと2試合、使ってもいいのではないかなと考えます。
最後にシニアサッカーの話を。オーバー60のチームに参加するようになってしばらく経ちます。動ける人はジムに行っている、日頃から走っている――など努力しています。僕も鹿島神宮までの約4キロ、途中坂道があるのでそこは4~5本ダッシュしてフィジカルレベルを上げて、食らいついていきます!
●大野俊三(おおの・しゅんぞう)
<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。
*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。