第216回 曺監督の懐刀・松田と細川運営本部長の貢献

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 今季のJ1は、互いにつぶし合っているため混戦となっています。第13節を終え、暫定順位ですが首位は勝ち点25の鹿島アントラーズ。2位につけているのは同24の柏レイソル。そして同24ながら、得失点差で3位に位置しているのが京都サンガF.C.です。今回は、僕が現役晩年に所属したサンガについて記そうと思います。

 

 サンガはこれまで素質のある選手が多くいましたが、歴代の監督やスタッフたちがうまく使いきれていなかった印象がありました。今年は随分とチームにまとまりがあり、良い結果につながっています。

 

 下部組織出身の選手たちが見事、チームの中核を担っています。現キャプテンのMF川崎颯太、MF福岡慎平、そして海外クラブから復帰したMF奥川雅也らがその筆頭でしょう。10代の下部組織出身の選手もトップに上がっています。今後が楽しみです。

 

 僕は現役引退後、サンガのユース、ジュニアユースの指導、そして普及部に配属され、ホームタウンの子どもたちと接していたので今のサンガの活躍はうれしいです。僕と同じ96年にユニホームを脱いだ細川浩三(現サンガ運営本部長)の貢献もあるのかなと思います。彼は引退後、普及部のコーチに就任し、のちに運営本部に移ったようです。

 

 普及部は、幼稚園などを訪問し、体を動かす楽しさや体力づくりにコミットします。僕がアントラーズからサンガに移籍した時。細川は真面目で真摯にサッカーに向き合う選手でした。彼の現役引退後からの苦労が報われ始めている、と言っていいでしょう。

 

 そして、今のサンガを語る上で、曺貴裁(チョウ・キジェ)監督は外せません。21年、当時J2だったサンガの監督に就任。堅守を武器に1年で1部に昇格させました。22年=16位、23年=13位、24年=14位と見事J1残留を達成しています。

 

 曺監督は大きく戦い方を変えず、スタイルを一貫していることが大きいです。戦い方が整理されているから選手の理解も進むし、選手が理解しやすいように監督が戦い方を整理しているとも言えます。好循環が生まれています。ブレない、とはいえマイナーチェンジははかっています。昨年までは球際と激しさとチーム全体の運動量の高さ、攻守の切り替えの速さが目立っていました。今季はここに先述した彼らが見せるワンタッチパスで相手を翻弄しています。曺監督のやりくりのうまさが見えます。

 

 そして、もうひとり語らずにはいられない人物がいます。曺監督就任と同じタイミングで湘南ベルマーレから移籍してきたMF松田天馬です。彼はベルマーレ時代の曺監督の愛弟子。監督の考えややり方を理解している選手がいるのといないのとでは大違い。おそらくですが、松田の貢献は大きかったはず。移籍1年目から2年間、キャプテンだったのはその証左です。曺監督の懐刀、と言ったところでしょう。

 

 僕の現役時代のサンガは、とにかく即戦力を揃えることに必死でした。今は育成も充実しつつあり、良い時代になったなぁとOBとして嬉しいです。

 

 外国人選手の選定もお見事です。昨年途中からレンタル移籍で加入し、今季から完全移籍に切り替わったFWラファエル・エリアスは、現在得点ランキングトップタイ(8ゴール)。ゴール数だけでなく、前線からのチェイシングでもチームメイトを助けています。

 

 そして、何より人柄がよいことでも話題となりました。相手選手が倒れていると心配そうに見つめ、タオルでバサバサと風を送る姿を見せました。僕は、Jリーグクラブが外国人を獲得する際に、性格、内面、人柄といった要素も大事だと考えています。

 

 人柄の良さ、プロとしての厳しさの両方を持ちあわせた選手を獲得すべき。プロとはこうあるべき、と日本人の若手に教えてくれる選手がいることで、若者の考えの幅も広がります。僕はジーコやサントスたちからそれを学んだものです。

 

 サンガは、まずは夏前まで今の調子を維持できるか。このあたりになると他クラブのスカウティングが進み、対策を立ててくるでしょう。下部組織出身者、中堅、外国人選手たちの連係の良さで、他クラブの対策の上を行くサッカーを期待しましょう。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。

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