第811回 昭和の大エース、開幕投手の誇り
今年のプロ野球は、セ・パともに3月28日に戦いの幕が切って落とされた。
栄えある開幕投手は12人しかいない。日本の場合、メジャー・リーグとは異なり、エースが開幕投手を務めることが多い。
現役時代、4回も開幕投手を務めた元広島の佐々岡真司は「監督から今シーズンは、オマエを中心にローテーションを回す、と言われているようなもの。そりゃ、うれしいですよ」と語っていた。
続けて、こんな話も。
「僕たちの頃は、前の晩、赤飯にとんかつ、タイの尾頭付きが食事に出ましたよ。これを食べて“さあ、今年も1年頑張るぞ”と。今の選手は、もう、こういうことはしないんでしょうかねぇ」
1975年から86年にかけて12年連続で開幕投手を務めた元阪急のエース山田久志は、独自のこだわりを持っていた。
「開幕戦の第1球は、常にストレートと決めていた。キャッチャーミットが“パチン”と鳴り、アンパイアが右手を上げる。ここから僕の1年が始まったんです。だから初球だけは、バッターに振ってもらいたくなかった」
若い選手の中には、こうした山田流の“儀式”を忖度しない選手もいた。別に1球目から振ってはいけない、というルールはないのだから、バットを振ろうが振るまいが、それは選手の勝手だ。
しかし、山田にすれば“空気の読めないヤロー”となる。下手にファウルにでもしようものなら、思いっきりにらまれたという話を、当時、まだ若手だった選手から聞いたことがある。
「それからは球場で挨拶しても、口もきいてくれませんでした。こっちは“ストレートがきたら1球目から振ろう”と、ただそう思っていただけなんですが……」
昭和のエピソードと言ってしまえばそれまでだが、選ばれし12人の開幕投手には、それくらいのプライドを持ってもらいたいものである。
<この原稿は2025年3月31日号『週刊大衆』に掲載されたものを一部再構成しました>