若い世代で芽吹くストライカーの種
むかしむかし、というか、そんな昔でもない、というか、いまでも時折見かけてしまうというか、とにかく日本のサッカー界には、古来より受け継がれてきた「前から流しシュート」という練習法があった。
ボールを持った選手がボールポストの横に立ち、そこから丁寧にコントロールされたサイドキックでのパスをペナルティーエリア外から走り込んでくる選手に出す。キッカーは豪快にインステップで蹴り込む。「ナイッシュー!」という掛け声が飛ぶ。以上を延々と繰り返す。
えー練習とは何のためにあるかといえば、当然、試合のためである。にもかかわらず、全国津々浦々で、試合において一試合に一度どころか、何十試合やったって一度も訪れそうもない状況でのシュート練習が、毎日の日課としてこなされてしまっていた。日本代表が、長らく決定力不足、ストライカー不足に悩まされてきたのも当然といえば当然のことだった。
むかしむかし、ジェフ市原に加藤好男さんというGKがいた。彼はマリノスにいた元アルゼンチン代表のストライカー、ラモン・ディアスに驚愕させられたという。
「シュートが来る! と思ったタイミングで来ないんだよ。ちょっと速くしたり、遅くしたりして打ってくる。それだけでGKはもう動けない」
加藤さんは日本代表の経験もある名GKである。当時の日本人GKとしては、外国人と対戦した経験は多い方だったはずだ。その加藤さんをして、79年ワールドユース得点王の技術は、異次元レベルに感じられたという。
話を伺った当時のわたしは、さすがディアス、さすがアルゼンチンということで簡単に納得してしまっていた。世界のごく限られた人間にしかできない、間違っても日本人には習得できない技術だと思い込んでいた。
なので、驚いている。
サウジアラビアで行われているU-17アジア杯。日本は初戦でUAEを4-1で下したのだが、その内容に度肝を抜かれた。
ディアス的なシュート、つまり自分が気持ちのいいシュートではなく、相手GKを不愉快にさせる類いのシュートが連発されていたからである。それも、一人のストライカーに限った話ではない。チャンスを迎えた選手の多くが、タイミングという概念を意識しながらプレーしていた。
UAEが弱ったから、ではない。日本に大敗して迎えた第2戦、彼らはオーストラリアに2-0で完勝している。同じく第2戦、日本が終了直前のPKでベトナムに追いつかれたことを見ても、この組の実力がかなり接近していることはわかる。
ただ、結果的に1-1で終わったベトナム戦にしても、日本のアタッカーたちは幾度となく相手最終ラインを切り裂いていた。たった1点しかゴールが奪えなかったのは、「彼らの日ではなかった」としか表現のしようがない。
言うまでもなく、サッカーにおける勝敗は、複数の要因が関係しあうことで決定づけられていく。どれほど素晴らしいアタッカーがいても、星を落とすことは珍しいことではない。とはいえ、いまだ釜本以上の象徴的な点取り屋が生まれていない日本にとって、若い世代に見られる育成の成果は明らかな朗報である。
むかしむかし、日本にはストライカーがいないとか言われていた時代があってな――そんなふうに言われるときが近づいてきているのかもしれない。
<この原稿は25年4月10日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>